何でもなかった貴重な日-2
翌朝の出来事です。
そのころ私達は、一家四人が団地の二間で適当に布団を敷いて寝ていました。
朝早く眠りの中をさまよっていた私は、朝刊を取りに行った母親が、台所の灯りをつけて、
「きのうの地震のことが書いてあるわ。神戸で震度1やて。」
と言ったのを、ぼんやり覚えています。
バンッ!
私は背中を蹴飛ばされたような衝撃に目を覚ましました。
あんまり長い間寝ていたので、怒られたのかと思いました。
しかし、次の瞬間私は起き上がれないほど あたりが揺れている事に気がつきました。
目の前にあった大きな本棚から、すべての本がふるい落とされていくのが見えました。
本の背文字や表紙など、ハッキリ読みとれました。
だから私は地震が、もう あたりがすっかり明るくなった時間に起きたのだと思っていました。
突然「チムチムニー チムチムニー チムチムチェリー……」のメロディーがあたりに響きました。
それは本棚に飾ってあった、オルゴールのついた写真立てが 落ちた衝撃で鳴り出したものでした。
最初の揺れがおさまってからもしばらく、そのメロディーはゼンマイがほどけるまでじわじわと繰り返されていました。
震源地が近いわりに、団地の建物はなんとか もちこたえ、家族もみんな無事でした。
しかし、めちゃくちゃにモノが散乱した闇の家の中でうまく動けず、手さぐりでなんとか さがし出したラジオで情報を聞くのがやっとでした。
そのあとの出来事を書く気力は出ません。
思い出すと辛い話ばかりです。
ただ、地震のあと私は 静けさと闇とが怖くてたまらなくなり、今でも夜通しラジオと小さな灯りとは つけっ放しにしないと眠れません。
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地震から数日後の真夜中、余震で目が覚めた私は つけっ放しにしてたラジオから歌を聴きました。
ラジオはそのころ、懐かしい歌や元気の湧く歌をさかんに響かせていたのですが、その歌は悲壮感に満ちていました。
だけど、逆にその歌を深く愛しました。地震から数ヶ月経って、街へ買い物に出ていく気持ちになった時 CD屋さんに駆けつけてそのCDをさがしました。
それは渡辺未央(みお)さんの歌う『終わらない愛』でした。
震災のひと月ほど前に出た歌で『ブレス・オブ・ファイアー』というゲームのイメージソングでした。
自分はその歌を、勝手に震災のテーマソングにしてしまっています。
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祈りをこめて