探偵、依頼受付中 【遺言】-3
命のその言葉に公明は思い出した、と言い口を開く。
「そういえば父も真面目とはいえない人でしたね。なんせ趣味はギャンブル、特に競輪、競艇、麻雀が好きだったみたいです」
「ほう、中々私と気が合いそうな人だな。まったく惜しい人を亡くした」
どうやら命は本気で言っているらしい。
「なんでも私が生まれたころに松本電機産業の前身となる会社を興して、その会社が経営危機に陥った時に競艇で運営資金を稼いで乗り切ったらしいですよ」
公明は少し笑顔を見せながら言った。きっと父との思い出を思い出したのだろう。
「まさに勝負師。ああ、一度お目にかかりたかった」
命はまた口を挟む。何度も言うが命は本気で言っている。
「ところで松本さん。暗号に1〜9までって書いてありますけど、金庫には0もあるんですよね」
そんな二人より幾らか真面目な望が口を開いた。
「そうです。だから0はきっと使わないのでしょう」
「おお、それなら9の14乗通りに減ったじゃないか。頑張って試してくれ」
ここでもやはり適当に答える命。命にとっての探偵の仕事とは調査である。暗号を解くのが嫌いなわけではないのだが、仕事として解くのは嫌なのだ。
「先生、それでもまだ20兆通り以上ありますけど」 素早く計算した望がツッコミを入れるが、
「後は勘で解決だ!」
と、命は高々に叫ぶのだった。
望は一つため息をつき、口を開く。
「先生、その台詞も前聞きました」
「ふふ、名言だろ」
今の台詞はどうやら『名言集ノート』から抜粋したものらしい。
こうしたグダグタな会話が暫く続き、依然、命は暗号に取り掛かろうとしなかった。
そして鳩時計の鳩が10時を示すように鳴きはじめたのであった。
そうして一通りふざけ終えた命は、突然紙に何か書き、それを公明に渡した。
「まあ、とりあえずこれを試してみてくれ。間違っていたら、残念だがこの件は私では力になれない」
散々ふざけておいて、今更真面目になっても信用できないものだが、公明は
「わかりました、ありがとうございます」
と、素直にその紙を受けとるのだった。そして出された冷茶を一気に飲み干し、陽の高くなってきた外へと出ていった。
事務所に二人だけになったところで、望が口を開いく。
「先生、適当に書いてごまかさないでくださいよ。探偵が万能じゃないのはわかってますから」
「ん、望君中々失礼な子になったな。躾がなってないぞ」
「え、じゃあ暗号わかったんですか?」
望は心底驚いた。
(あんなにやる気がなかったのに)
今日は朝といい、命に驚かされっぱなしである。
「伊達に探偵事務所の所長を名乗ってないさ」
ふふっと不敵な笑いをうかべる命。
「まあ解読の鍵は14桁、それに頭は8というところか。一般的に4桁の数字といえば思い浮かべるのが誕生日。では8桁だと?」
「生年月日ですか?」
「その通り。では11桁では?」
「11桁? なんですか?」
「まあ、携帯電話の番号だろうな。そして14桁の数字……まあ正確には数字ではないが、私や件の社長が思い浮かべるものがある」
望はゴクリと息を呑む。