痴漢専用車両の在り方-5
「ああ…、どう言えばわかってもらえるの…」
陽子の解析は追い付かなかった。
『どう言われても、優子が巻き込まれた事に変わりはないものね』
「そ、そんな…。ゆ、優子ちゃんには変な事はさせませんから、星司との結婚だけは…」
星司には優子が必要だ。必死に訴える陽子を画面の中の良子が制した。
『ちょっと聞いてくれる』
「でも、星司はあたしと違ってまとも…」
『いいから、少し喋らせて』
「はい…」
陽子でも年の功には勝てなかった。
『優子の事を話すわ。星司さんも聞いててね』
「はい」
星司は素直に答えた。
『優子はね、小さい頃から不思議な子だったの。なんて言うのかな、一緒に居ると心が和むのよね』
予想とは違って穏やかな話し方だった。聞いていた者達は揃って頷いた。
『優子が3歳の時にね、不思議な事があったの。あたし、おっちょこちょいで家の階段から落ちた事があったのよ。その時、変な感じで捻って足の骨が折れたみたいなの。みたいってあやふやに言ってるけど、他に言い様がないのよね。足がね、くるぶしのところで90度に曲がってたの。凄い激痛でね、あたし、痛くて怖くて号泣よ。そしたら優子がね、泣きながら『いたいのいたいのとんでけー』って、可愛い手で何度も何度も足をさすってくれたの。するとね、痛みがウソのように引いたのよ。あたし、驚いて足を見たら真っ直ぐに戻っていたのよ。その時は頭でも打って夢を見たと思ったけど、その事がずっと心に引っ掛かってたのよね。それから小さな怪我をする度に、優子に『いたいのいたいの』をやって貰ってたの。足の時みたいに劇的じゃないけど、不思議と治りが早いような気がするのよね。陽子さん、こんな話、信じられる?』
「はい。優子ちゃんはヒーリング能力があるヒーラー、【癒す人】で間違いありません。今はその力も覚醒していて、雄ちゃん…、雄一さんも腕の骨折や他の仲間の怪我も治して貰ってます」
『うふふ、骨折?あなた達、やっぱり危険な事もやってるのね』
「あっ!」
話の流れでついつい同体験を口にしたが後の祭りだった。
『いいのよ。だから遠慮なく優子を使って。そんな能力があるんだったら、それを活用できる方が優子も幸せだと思うよ。それに、あなた達には精神的にも優子が居た方がいいみたいだしね』
「面目ありません」
星司は頭を下げた。
『いいのよ。それほど過酷な事をやってるって事ね。でも、反対に優子も支えてあげてね』
「はい、それは任せてください」
星司の答えに良子は満足した。そんな良子の肩を拓哉がポンポンと叩いた。
『ほら、ついでに、ほら、わかるだろ』
以心伝心、拓哉の言いたい事は直ぐに理解した。
『ええ、わかってますよ』
それは良子も望んでいる事だ。
『それとお願いがあるんだけど』
夫婦が揃ってニヤリと微笑んだ。
「何でしょう?」
『あたし達も【痴漢専用車両】に乗せて貰えないかしら』
良子が上目遣いで頼んだ。しかし、陽子は直ぐに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ご、ごめんなさい。今【痴漢専用車両】はマスコミが動いていて、電鉄会社の了解が取れないんです」
『えっ、そうなの…。ああん、がっかり〜』
夫婦は仲良く肩を落とした。