痴漢専用車両の在り方-4
「ううっ…」
星司の悲しみに包まれた陽子の目からまた涙が溢れてきた。しかし、それ以上に星司が言った事が気になっていた。星司は陽子に流している悲しみの記憶を選り分けて、それを陽子に示した。
「今から思い返しても、陽子と同じで僅かなものだ。たがオレはその事で自分が赦せなかった。ほら、これがそうだ」
陽子は大きな悲しみの中に僅かなそれを見付けて驚いた。
「えっ?これだけ…」
「オレが感じた陽子の記憶もそんなものだ」
「うそ…」
目から鱗だった。陽子の目が驚きで見開かれた。
「で、でも、どうしてこれで悠子が怒るの?さっきの話だったら悠子はこんな事で怒らないんじゃなかったの?」
「もちろん悠子はこんな事では怒らない。悠子が怒ったのは、そんなちっぽけな事で悩んだ挙げ句、廃人になって陽子に苦労をかけた事だ。で、悠子からの伝言だ。流すぞ」
星司は予めこの事を予想していた悠子の想いを陽子の心に流した。
陽子の心の中に親友のイメージが広がった。
−もう!あんた達姉弟は!今度は陽子ちゃんなの?あたしの事で勝手に悩まないでよ。せっかく戻ってこれたのにいい迷惑だわ!そ・れ・と・勝手に居なくなって雄一を悲しませたら、今度はあんたに取り憑いてやるからね。毎晩オナニーして寝かせてやらないんだから−
悠子の優しい罵倒を聞きながら、陽子の心は癒されていった。
「うふふ、このメッセージ、優子ちゃんの癒しメモリー付きなんだね」
涙をポロポロ流しながらも、ようやく陽子の表情が穏やかになった。
「みなさん、ごめんなさい。やっぱりあたしはみなさんが居ないとダメみたいです。これからも頼らせてくださいね」
陽子は心の中の素直な気持ちを口にした。
『オレも居ないとダメなんだよな。オレの前から居なくなったりしないんだよね』
寛子が制してから、ずっと我慢して黙っていた雄一が口を開いた。
「ええ、雄ちゃんは子作りに【利用】させてもらうからね。今からでも帰っといで。でないと星司相手に浮気しちゃうからね」
『時差が8時間あるから直ぐに無理だ。仕方がない、アニキとの浮気は我慢してやる。その代わり、帰ったら優子ちゃんを犯してたっぷり楽しむから…ん、なに…、あっ!』
最後まで言ってから、雄一は陽子の目配せに気付いた。
(ばか…)
口パクで罵声を浴びせた陽子は、雄一と揃ってばつの悪い表情を浮かべた。2人がそれぞれチラチラと気にする視線の先には、これもずっと黙っていた優子の両親が映っていた。
『あらあら、ようやくあたし達が居る事を思い出したみたいね』
良子が嫌みたっぷりに口を開いた。
「ごめんなさい!」
慌てて頭を下げる陽子を無視して良子は続けた。
『ただのエッチな集団だと思ってたけど、死んだの、帰ってきただの、はたまた心を読む?あたしの娘はとんでもないオカルト集団に巻き込まれたものね』
良子が呆れた口調で言うと、陽子の顔面が蒼白になった。陽子の脳裏に星司との【婚約破棄】の文字が浮かんだのだ。
「お、お義母さん、聞いてください」
『【お義母さん】なのよね。という事は、あたし達も親族として人の生き死に関わるとんでもない集団に関わるって事になるわけ?』