梅雨色の浄化-2
「今日は楽しかったよ。」
手を降って私の前から離れていく。紗香さんの存在が薄れていく気がした。
「私…雨の日はいつもここに居ますからっ!」
最後に見た紗香さんの笑顔は、初めて逢った時と変わらない。
その笑顔で私の心臓は高鳴り、暫くその場を動く事が出来なかった。
相変わらず雨が降っていた。
私は昨日雨に打たれすぎたせいか酷い風邪をひいていた、医者の話だと三日程休んでおけということらしい。
ベッドの中で雨に濡れた窓を見ながら私は紗香さんの事を想う…今は何をしているのだろう。
紗香さんは高校生、もちろん平日の今は学校が有るはずだ。
友人達に囲まれて楽しい学校生活を過ごしている紗香さんの姿を想像してみる。
(私ももう少し早く生まれていたら…紗香さんの友達になれたかな?)
紗香さんと仲良く登校したり、お弁当を一緒に食べたり出来たらいいな…と思った。
もちろん、それは叶わない夢であるのだが…。
「また…逢いたいな…。」
三日後、安静にした私は無事風邪を完治する事が出来た。
これからまた出かける事が出来る…雨に濡れる窓を見ながら心が躍るのを感じた。
傘も差さずにいつもの公園に向かって走っていた。もしかしたら紗香さんが居るかも知れないと言う淡い期待が心に有った。
いつも座っているベンチが目に入る。
(…流石に居ないか……。)
落胆する心を感じながらベンチに座る。もしかしたら来てくれるかも知れないという期待も有ったからだ。
「お嬢ちゃん。」
一時間程経っただろうか、いかにもお節介焼きが好きそうな中年の女性が近付いてくる。
「どうしたんだい?」
心配した顔で私の事を見る。
「人を…待っているんです。」
私がそう言うととても驚いたような顔をした。
「まあ、あんたが昨日のお姉さんが待っていた人かい!?」
一瞬女性の言っている事が解らなかった。このようにベンチに座っている時に声をかけられる事は何度か有ったが
誰かに待たれた事など一度も無かったからである。
「長い髪で制服を着ていたお姉さんだよ!わからないかい?」
長い髪で…制服。
まさか…紗香さんが待っていた…?
「紗香さんがどうかしたんですか!?」
私が紗香さんの名前を呼ぶと女性は少し表情が暗くなる。
「ああ…やっぱりあんたが……。」
「紗香さんに何か有ったんですか!?」
私が感情的に叫ぶと女性は苦しそうな、辛そうな表情で言った。
「昨日…肺炎で亡くなったよ。」
雨の音が酷く耳に残る。心が凍りついていくのが自分でも分かった。