栗原家の場合-2
「そ、知り合いが恥辱プレーに興じる。それは、いいと思うよ。私は、別にかまわない。でも、私自身がプレーヤーとして参加するっていうのは、ちょっと違うかな。これが前もって聞かされていて、それに納得しての参加だったらさ、やってもいいけど」
臣吾も、奈々子の発言に、ほとんど近い感覚を持っていた。
どうぞ蔑んでやってくださいって言われて、はいそうですか。って状況ではない。責める側にも、心の準備ってもんが必要だ。
「ごめん。調子に乗り過ぎたよ」
しゅんと、大信が呟くように言った。
「ごめんなさい。勝手なことばかり言って」
続いて百合子も、謝罪の言葉を口にした。
「とりあえず、今日の所は、みんなからのカミングアウトだから、プレイ自体は・・・・・・ね」
奈々子は、今日の趣旨を再度念押しした。
「うん。わかった」
大信は、神妙に答えた。
「でもぉ、夫婦間で、勝手にやるのは、私たちがとやかく言うことじゃないから。それは、いいよね?」
つまり、大信夫婦以外は、参加することは無くても、自分たちで勝手に盛り上がればいいじゃないと。公開恥辱をするんだったら勝手にやってってことだ。
奈々子は、他の面々に同意を求め、全員、無言で頷いた。
大信と百合子は、互いに頷き、話を再開した。
「じゃあ、きっかけから話すよ」
百合子は、再び、目を瞑った。
「みんなも知っていると思うけど、俺たちは、見合いで結婚した。二人とも、恋愛経験何て全くなかった。俺は・・・・・・風俗でしか経験が無かった」
百合子が蔑まれる側かと思っていたが、大信もその気があるようだ。
「私は、処女でした。夜の営みについては、話では聞いたことがりました。友人たちとの会話の中で、実際に経験した方もいましたので、耳にはしていました。話だけで、実際に男性とお付き合いしたことはありませんでしたから、手を握ったりしたのも、主人が初めてでした」
当時の、淡い記憶を思い出したのか、百合子の頬が、少し赤らんだように見えた。
「結婚して、普通に夜の生活を送っていました。初めての時は、ビックリしましたが、少しすると、気持ちがいいものだとわかりました」
百合子は、少し強張った表情をしていたが、性生活について語り始めた。
「その頃は、至って普通でした。初めて、おチンポをしゃぶった時は、さすがにカルチャーショック並の衝撃を受けましたけど」
あの淑女然とした百合子が、スラスラとおチンポと口走ったことに、一同ひっくり返るほど驚いた。透などは、ポカンと口を開けている。
皆が驚く様子を感じ取った百合子の口元が、少しニヤッとした。いやらしさを含んだ笑い方だ。
それを横目で見ていた奈々子は、百合子は自分なんかとは比べ物にならない、根っからのスケベな女なんだと感じた。
「多分、どちらのご夫婦方とも同じようなことをしていたと思います。キスから始まり、挿入し、達して終わる。皆さんと変わらない性生活だったと思います」
一般的な夫婦の夜のスタイル。ここまでは特にアブノーマルなことはない。
「ある夜。主人は、銀行の宴会で、酷く酔って帰ってきました。普段は、SEXに対しても消極的で、変わったことをするような人ではなかったんですが・・・・・・」
その夜のこと思い出しながら、百合子は語る。
恐らくは、もう、自分の中でそっちの世界に入り込んでいるのだろう。眼も、心なしか潤み始めているようにも見える。
「私は、どんなに遅くなっても、必ず主人を出迎えます。古い考えかもしれませんが、親からはそういうものだと躾けられてきましたし、特に苦にはなりません」
良家の子女として、不躾があってはならないと、大切に育てられてきたことが良く分かる。
そんな百合子だからこそ、このギャップに驚かざるを得ない。
「おかえりなさい。も言い終わらないうちに、いきなり抱き着かれ、玄関でパジャマを剥ぎ取られました。そして、そのまま私の身体を貪りつくように愛してくれました」
百合子の言葉の端々から、愛が感じられた。
ただ単に、SEXに没頭するだけの夫婦ではないことは、彼らの人柄を知る人間だけでなくとも、百合子の言葉を聞けばわかってくれるだろう。
「いよいよ挿入の時でした。主人は、玄関のドアを開け、外から丸見えの状態にしたのです」
一同は、全員ゴクリと唾を飲んだ。
夫の大信は、顔色一つ変えず、妻の告白に耳を傾けている。
「主人が下になり、背面座位と言うのでしょうか、外から見れば、結合部が丸見えの恰好で、ことを始めたのでした」
「それが、家の言い伝えだったんだ。つまり公然露出」
大信宅は、同敷地内に両親の自宅とは別の戸建て住宅。
確か、両家の建物は数十m離れてはいたはずだが。それでも、もし誰かが来れば二人が何をやっているのかは一目瞭然。いや、それどころではない。二人の性器がまともに目に入るのだ。
「普通の人ならば、こんな屈辱的で、恥ずかしい行為には、嫌悪感だけでなく、怒りさえも覚えることだと思います。でも、私は、感じてしまったんです。それも、今までには経験したことのない、ある種異様な興奮でした」
当時のことを思い出したのか、百合子は恍惚に近い表情で、顔も上気している。
「人に見られるかもしれない恐怖感など、微塵も感じていませんでした。それよりも、もっと見て欲しいと言う感情の方が、どんどん大きくなっていきました」
良家の真面目な女性として振舞っていた百合子の仮面が、ボロボロと崩れ落ち、淫乱好色熟妻の顔が浮かび上がる。
「私は、スケベな女です。人に見られ、蔑まれることで興奮するスケベ女なんです」
ワントーン高い声で、悲鳴にも似た告白。
百合子の顔を見ると、告白だけで昇天してしまったかのようだった。
「ご先祖の明示がなくても、どこかでこうなっていたと思う」
告白が済んだからか、大信の顔は、満足気だった。