薄荷-2
涙が零れて来た。
云ってしまった。
すぐ後悔する。
ショックを与えたかったのに泣くなんてみっともないし、何より初めて他人に云ってしまった事で、僕自身が打撃を受けた。
大変な事を云ってしまった。
僕は意地になって、恐ろしい世界へ足を踏み出してしまった。
暗くて狭い、でも身は守れるあのクローゼットから。
「そんな事思わないけど」
「は?」
一人動揺していた僕は想像もしなかった健吾の言葉に驚いて、目を見開く。
「俺はゲイじゃないけど、偏見はないよ」
健吾はあっさりとそう云う。
「そんな事云っても、皆に」
「云いふらしたりしない。吉田君がそんなに辛そうなのに」
健吾の目は真剣だ。
本当なんだろうか。
信じて良いんだろうか。
僕は誰にも認められない、罪深い人間じゃないんだろうか。
「今まで頑張ったね」
そう、健吾が呟いたから。
僕はその場でしゃがみこんで、わあわあと泣いた。
子供みたいに泣きじゃくった。
僕は、誰にも認められないだろうと思ってた。
ゲイの人は解ってくれる、それは仲間だから。
だけど外から見た僕らはきっと滑稽で気味が悪い連中なんだ。
ただ生きているだけなのに。
そう思って誰にも云えなかった。
モニタの中の文字だけを頼りにする、そんな日々を思い出して。
でも彼の言葉のお陰で僕は生きて行ける気がした。
例え世の中の殆どが僕を嫌っても、健吾が居るのだからと思える。
気持ち悪いと云わない男性も居るんだ、って。
嬉しかった。本当に嬉しかった。
だから。
僕は、健吾に恋をした。
苦しい恋。
拒絶はされないけれど、実りもしない。
通じ合えないのに、笑顔はくれる。
優しい健吾に恋をした。認めてくれた彼を好きになった。
余りに儚い思いだとしても、それは恋だった。
結局何日経っても僕がゲイだと云う話は出ずに、時は流れ。
相変わらず健吾以外には悩みを話せず、ユリとは何となく仲が良くて、緩やかに高校生活は過ぎて行き。
今日は健吾の卒業式。
叶わないけれど、好きな人が居るというのは辛くて幸せだった。
それも、今日で区切りをつけようと思う。
いつまでも抱いてはいられない。
報われない思いだ。