『茜色の空に、side:秦一』-3
でも、たまに会う明香さんに、やっぱりこの人が好きなんだと自覚させられてしまって、その子達とは長く続かなかった。
「その内良いコが見付けてくれるよ。」
相変わらずにこにこと微笑みながら、罪な事をサラッと言う。
明香さんにとって僕は、単なる『可愛い後輩』、そう釘を刺される様だ。
又胸がきしむ様に痛む。
「僕がさ、なんで彼女いないか、知ってる?」
あれ。なんで僕はこんな事を言ってるんだ。
「僕、入学した時から、・・明香さんの事、好きだったんだよ。」
言ってしまった。
そうだ。僕の一目惚れ。
僕が大学に入学してすぐ、オリエンテーリングが学科毎にあった。
新入生から4年生迄一同が揃い、名前やら出身地やら自己紹介をし合うのだ。
その時、初めて明香さんを見た。
背がそう高くなく、色白で可愛らしい顔立ちをしているが、意志の強そうな大きな瞳、サラサラのミディアムヘア、ジーンズに白いシャツ、というさっぱりした身だしなみ、時折見せる柔らかい笑顔、全てに引き込まれていた。
彼女の自己紹介の番になり、彼女の名前が村上明香で、3年生である事を知った。
僕と同じ学年ではない事は分かっていたが、2年かな、と思っていたので驚いた。
それから暫くは、歓迎会やら何故か合宿やら、色々先輩達と一緒になる機会が多く、その度に僕は明香さんに惹かれていった。
が、ある日、大学構内で見てしまった。
明香さんが、見た事のない男と仲睦まじく歩いているのを。
小さい明香さんが顔を真上に上げないといけない位の長身の、男の僕が見ても格好良いと思ってしまうその人は、優しく明香さんに笑い掛ける。
明香さんもそれに応えて微笑む。
ズキン──。
胸の奥がそう鳴った。
───ふと目の前の、あの頃より少し大人になった明香さんを見遣る。
一人でわたわたしている様が可笑しい。僕の告白のせいなんだけど。
やっぱり全然僕の気持ちには気付いてなかったのか。鈍っ。
「彼氏いても、ずっと好きだった。年上なのに、何かちっちゃくって可愛くって、好きだったよ。」
僕の顔をじっと見つめるだけの明香さん。
その少し困った様な、でも真剣な眼差しに、僕の気持ちが溢れて止まらなくなる。
「キス、していい?」
こんな事、聞くモンじゃないよな、と少し自嘲気味になりながらも、でももう止まらない。
「彼女出来るって、保証してくれるんでしょ?責任、取ってよね。」
顔を真っ赤にした明香さんに口づける。
「んっ・・。」
深い口づけになると明香さんの口から声が漏れる。