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ハッカ飴
【ボーイズ 恋愛小説】

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ミントジュレップ-1

ユリはするりと美術室の中に入って来た。
「谷町さん、どうしたの?僕は―――ちょっと絵を直したくなったんだけど」

ゆっくり、とか静かに、とか付けようかと思ったけれど、止めておく。自分だったらそんな風に言われたら傷つくから。
僕はユリにうっすらと嫉妬を抱くけれど、嫌いでもないし憎くもない。むやみに傷付けるような事を言う無神経な人間にはなりたくない。

「うん、私もそんな感じ」
ユリは微笑んでカンバスを持って来た。
柔らかい、果物の絵。
「谷町さんの果物の絵は、美味しそうだね」
ふとそんな言葉が出た。ユリは微笑んで「食いしん坊だから」と云う。

絵はその人の気持ちをよく表すと思う。
悲しければ色は暗くなるし、幸せならそれが滲むようにあったかい絵になる。

ユリの絵は、ふんわりしている。
何かに包まれているかのように。

それは兄の健吾だろうか―――ふとそんな事を思う。

「谷町さんは、スケッチハイク行かないんだね」
僕はぽつりとそう云った。
ユリは俯いて答える。
「うん。私、高いとこ駄目なんだ」
「苦手なの?」

僕がそう云うと、ユリは悲しそうな悔しそうな顔をして、全身を強張らせた。
緊張している。
これから、罪の告白でもするように。

「怖いの」

「怖い?」
「高い所のとこ、考えただけで怖い。私、生まれつき高所恐怖症なんだ」

ありふれた響き。
だがユリの表情は、その恐怖の大きさをよく表していた。

背負わなければならない、とても重い荷物なのだ、と。

「ああ―――だから美術部に入ったんだ。活動が一階だから」
ユリは驚いた顔をして僕を見た。

「笑わないの?」
「どうして」
「情けないでしょう?」
「なんで?怖いのは谷町さんの所為なの?」
生まれつき背負ったもの。

ああ、それはユリにもあったんだ―――。
僕はなんだか嬉しかった。

「違うよ」
ユリは涙を浮かべた。
「でも、みんな責めるから。情けないとか治せとか、努力が足りないとか」

お医者さんも治せないって云ったのに―――ユリは涙を拭う。

「大変だったね。谷町さんも、辛かったんだね。ずっと」

僕の言葉に、ユリはぽろぽろと涙を零した。
「ありがとう。ケンと理子と、吉田君で三人目だよ。責めなかった人は」

あ、あと両親も。
そう云ってユリは笑う。


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