秘めた極楽-3
3.
由貴は、世話好きの叔母の薦めで紀夫と見合い結婚をした。
夫婦、夫々が専門分野のプロフェッショナルとして活躍する、時代の先端を行くカップルとして、人にも羨まれる生活を堪能してきた。
優しい夫に甘えて、考えてみれば随分と勝手なことをしてきた。妻として、女として夫に尽くしてきたとは言えない。振り返れば、夫のことだけを責める訳には行かない。
由貴は、離婚を受け入れた。
紀夫は住んでいる家と財産の大部分を由貴に残して、家を出た。
由貴夫婦が離婚をしたニュースは、古くから二人を知る友人、知人には驚きの衝撃を持って伝えられた。
「なんでぇ???」
長年の友人で、由貴とはダンスのパートナーでもある博史もびっくりした。
どう見ても理想の夫婦としか思えなかった二人の離婚は、理解が出来なかった。
博史にとって、由貴は理想の女性だった。その理想の女性を離婚した夫、紀夫の気持ちが分からない。
(勿体無いなあ)
というのが、博史の本心だ。
(お前が要らないなら、俺が貰っちやうぞ)
由貴のダンスパートナーといっても、夫婦同士の長年の付き合い。由貴に寄せる想いはあっても、その家庭を壊してまでもと言うブレーキが利いて、行動はじっと控えていた。
博史の勤める大和自動車は戦時中は軍用機を作っていた会社で、戦後自動車製造に転換をした。技術が売り物の少数精鋭主義の社風があり、博史の仕事であるリコール対策室、主査の仕事は忙しい。
リコールは、一歩を間違えると会社の存亡にも関わる重要な案件である。
普段の顧客からのクレーム対策のほか、月一回の設計部、研究部、製造部合同の品質連絡会議の準備と、息を付く暇もない。
中々ガールフレンドを見つける機会がなく、手近な社内での交際から、あまり深い考えもなく社内結婚をした。