運命の人〜好き〜-3
聞いていて、胸にくるものがぐっと圧し上がってくるようだった。また、私に何かを気付かせるものもあった。
伸びゆくうどんを気にする視線は、いきなり止められた。
我に帰ったのか、恥ずかしそうという気持ちがあったようで、彼の一時的な素直な表情が引き締まった。
「先輩にこんな話をしたって何を言っていいか分からなくなるだけですよね。困らせるだけなのに、そして、そんな奴に好きだと言われて気の毒じゃないですか。」
「ううん。聞かせてくれてありがとう。」
私がそう言った途端、彼は意外そうな表情をしていたけれど、視線を合わせてくれた。
気付かれないよう、深呼吸をして自分に素直になってみた。
「もしかしたらだよ。私、付き合ってもらえないうちにフラれても、それを今でも懲りないで繰り返していたかもしれない。私のように、怯えて何も出来ないのとは違うよ。ちゃんと行動的になれて、私としては羨ましいし、貴重な体験を聞かせてくれてすごく嬉しい。」
「どうしてそんなこと…。」
「本当の恋で、その相手が私だと言ってくれてて。何だか、背中を押してもらえちゃったような気持ちなんだ。自惚れって思われるかもしれないけど、本当の恋なら私は塔也君を助けたことになってるのかなって。」
ここで、いい加減自分の言っていることに恥ずかしさを覚えた。良くない頭を働かせて言ったにもかかわらず、説得力ないなと後悔した。
すると、彼は溜め息なのか力を少し抜いて硬い表情に柔らかみが出て来ていた。
「だから、俺はあなたが好きなんだな。」
独り言のように呟いていたが、今出来る彼の精一杯の返事だとも見られていた。だからの意味が分からず、多少知りたい気持ちがあるが私も照れ臭くてなかなか言葉が出て来なかった。
先輩と呼ばれ、私は混乱気味に返事をした。
「俺、先輩にしてしまったこと反省しています。先輩にも、ご家族にも申し訳ないです。ですから、今からでもいい早く帰宅して下さい。」
「駄目!」
言った途端に、つい私は声を荒げて言ってしまった。いきなりの反論と大声に、塔也君は驚いた。
「あ…。」
彼の看病をしなければならないという、使命感で言ったわけでなかった。
これはわからざるを得ない。私は、彼のことを本当に好きになったのかもしれない。引き離されるのが嫌、そんな恐怖が私を留まらせていた。
何故、今気付いてしまったのだろう。こんなにもあっさり、単純に。
「塔也君、私…。」
恥ずかしかった。そのくせ、変に嬉しかった。
自分を監禁した人に恋して、自分は軽い女なのではないか。ちょっと好意に偏っただけで、何本気になってるんだろう。
「塔也君を好きでいていいの?」
こんな疑問系に繋がるなんておかしい。自分でもそう分かってるけど、不安が募って素直になることを邪魔する。