ミスから始まる地獄-1
浅野莉子(あさのりこ)が東京での作業を命じられたのは、名古屋の会社に就職して三年目のことだった。
莉子の勤める会社はシステム会社で、別会社に社員を派遣し、そこで開発支援を行うことで収入を得ている。そのため、派遣先が決まらない社員には、毎月の給料に手当てが付かないというペナルティが課せられるのだ。
東京はちょっと遠くていやだなと思っていた莉子だったが、最近なかなか次の派遣先が決まらなかった彼女には、東京への派遣を断る選択肢はなかったのだ。
東京ではウィークリーマンションを借りることになった。費用はもちろん会社持ちだ。
しかし、設備はお世辞にも良いものとは言えず、部屋は狭いし、ユニットバスだし、洗濯機が共有のコインランドリーしかない。経費節減のためなのだろうが、この部屋に入った莉子は、それを知ると早々にげんなりしてしまった。
利点は派遣先の職場が近いことぐらいのものだ。東京の通勤ラッシュを経験しなくてよいのは、莉子にとっても嬉しいものだった。
派遣先は小さな会社で、社員は全部で三十人ほど。
この社員全員と、莉子と同様に集められた派遣社員二十人で対応しているのが、大手企業の基幹システムだった。
納品したまではいいのだが、いろいろシステムのトラブルが重なり、とても社員だけでは対応ができなくなったのだ。
それに加えて、仕様変更等の要望も増えてきたため、派遣社員を募り、現在では約五十人で対応をしている。
毎日夜の十一時まで作業をして帰宅、そして翌朝九時には出勤する。そんな日々を二週間も過ごせば、莉子の体もそれに順応してきた。
職場の人達も莉子にとても良くしてくれていた。それもそのはずで、五十人もいるというのに、メンバーは莉子を除き、全員男性なのだ。
莉子は若くて、可愛らしい顔立ちをしている。胸も大きく、スタイルもよい。そのため、紅一点である莉子には、みんなが優しくなる。
勤務時間以外、何の問題もないと思われていた職場に、問題が起きたのは派遣されて一ヶ月が経った頃だった。
莉子の対応したプログラムが重大なバグを引き起こした。顧客データを壊してしまうという致命的なもので、メンバー全員で徹夜をしながらそのデータ修正を余儀なくされたのだ。
莉子は申し訳なさと情けなさで、居心地の悪い職場となってしまった。この大失態で、ここの派遣も切られるのだろうなとも思っていた。
そんな中で、さらに大きな問題が起きてしまう。
派遣社員のうち二名が逃亡した。一人はトイレに、もう一人は飲み物を買いに席を立ったあと、戻って来なかったのだ。
ただでさえ人手が欲しいときに起きたこの問題に、メンバーのストレスは最高潮に達した。
その頃から、この職場の雰囲気がおかしくなり始めたのだ。