[有害図書・前編]-1
今から20年ほど前、ある姉妹が下校中に行方不明になり、未だに発見に至っていない失踪事件があった……。
当時、ヒット曲といえばミリオンセラーが当たり前で、流行りのファッションも目紛しく変わっていた。
バブルが弾けたと騒がれていても、まだまだ消費型社会は続いていた。
他人より自分を優先する個人主義の人間が街に溢れ、しかし、流行りを気にして他人と同じファッションを選び、同じ音楽を聴きまくる連中が幅を利かせる時代……繁栄と衰退の混じり合う混沌とした空気に人々は吹かれ、在り来たりな日々を送る……。
あの頃、今では考えられない事だが規制も緩い事もあり、少女のヌード雑誌なども普通に書店に並んでいた。
いわゆる児童ポルノである。
少女達がどんな経緯で裸体を曝す羽目になったのか知る由もないが、大人達の欲望の為だけに幼い性被害者を作り出していたのは間違いないだろう。
その過ち……いや、無責任さに歯止めは掛らなかった。
書店のアダルトコーナーから一冊の雑誌を取り、何気なく開いてみる……そこには制服姿の美少女の隠し撮りが一面に亘って載っている……不当なプライバシーの侵害が、平然と行われていたのである……。
『横浜市の某駅前で撮りました。一週間狙って粘ってのベストショットです』
『岩手県某中学校の運動会にて。純朴な女子中学生の食い込みブルマを頂きました!』
おそらく写真の少女達は、この雑誌の存在を知らないだろう。
そして、知らないと高を括っているからこそ、その雑誌の文章は品性を著しく欠いていた。
『良い写真です!ちょっとヤンキー入ってますが、おじさんのチンポ攻撃にはメロメロになりそう。82点』
『中学生なら処女確定でしょう。ブルマの蒸れた中身が気になりますね。84点』
編集者のコメントも女性蔑視に溢れており、心ならずも被写体にされた少女達を性の捌け口としてしか見ていないことを隠しもしない。
他人を〈盗撮している〉という投稿者の罪悪感を過激な文章で掻き消し、隠し撮りを煽っては更なる投稿を募る。
こんな神経を疑う下品な雑誌作りは別に珍しくもなく、このような雑誌社の身勝手な言動が、新たな犯罪を招く要因となっているのも否定出来なかった。
[付け狙い]
つまりストーカー行為である。
どこの市の女子生徒かが判っていれば、あとは掲載されていたのと同じ制服の学校を探せばいいだけ。
一人では難しくても、三人・四人と仲間を募れば目当ての女子生徒を見つけ出すなど簡単である。
この極めて危険な状況を作り出していると知っていても、無断投稿・無断掲載というスタイルを止めたりはしない。
何故ならば雑誌社と犯罪者との間には、直接的なコンタクトが無いからだ。
付け狙いを指示した事実も、拉致もレイプも指示していないのだから。
『売れればいい』
この《無責任》は、異常性欲者にある姉妹の存在を知らせる結果を招いた……勿論、その恐ろしい事実を雑誌社のスタッフが知る事は無い……。