『BLUE 青の季節』-6
「宮前はなんでウチの部に入ったんだ?」
宮前はチョコレートケーキを頬張っていた顔を上げた。
「好きだからです、当たり前じゃないですか」
「マジでやってるんだ?どうりで速いと思った」
信は感心したように言った。
「・・・先輩は?マジでやってないんですか」
と宮前は口元のクリームを拭き取っていった。
「さあ。別に好きでやってるわけでもないしなぁ」
「でも、部長が言ってましたよ。信はやる気がないだけで本当は才能のある選手なんだって」
タケルが?、と信はいった。宮前がこくんと頷く。
「そりゃないよ。タケルが俺を誉めるなんて」
「嘘じゃないわ。だって私もそう思うもの。一生懸命練習すれば、先輩はきっとすぐに速くなれるよ」
と宮前は身を乗り出して言った。
信は肩をすくめて笑うと
「すぐに、ってどれくらいだよ?」
「そうね・・・」
宮前は目の前のケーキを空にしてから、きっぱりとした口調で言った。
「一年くらいかしら」
※
緩やかな峠道を一台のバスが走っていく。
柔らかい風が窓から顔を出した信の髪を揺らして、通り過ぎていった。
横手に広がる内海には様々な島が浮かぶように並んで、時折その上を夏雲が青く霞んで見えなくする。
―――八月。夏休み。
「合宿をしよう」と最初に言いだしたのは部長のタケルだった。
「それなら海の近くがいいわよ」と賛成したのが二年生の高木美津子。
「昼は練習で夜は花火大会ですよね」と宮前が嬉々として続いた。
盛り上がる面々を尻目にただ一人、信だけは興味もなさそうな顔をしている。
「ねえ、先輩も行きましょうよ」
宮前が信の隣で興奮したように言った。
「いいよ、めんどくさいし」
「なに言ってるんですか。夏ですよ、海ですよ、行くしかありませんよ」
夏休みはとにかく「家で寝たい」の信だったが、タケル等の熱意に押されしぶしぶ参加することになってしまった。
・・・・・・だが、当日の朝、珍しくバス停に時間どおり来た信を迎えてくれたのは、先程の三人のみだった。
「おい、なんで言い出しっぺしかいねえ?」
「実は・・・・・・」
タケルが言い辛そうに口をつぐんだ。聞けば他の部員は全員ドタキャンで残ったのは信達四人らしい。