『BLUE 青の季節』-5
それは他人より優れているとか、満たされている訳ではない、と以前タケルが話してくれたことがある。
そして輝きとはその人がいるだけで周りを変えていく力がある、とも。
「お前も誰かそういう人に会えれば、少しはましな人間になるかもな」
タケルは茶目っ気たっぷりにそう言うと、腹を抱えて笑いだした。
彼女が自分の待ち望んでいた人なのか、信にはわからない。
だが今、眼前に広がる光景の中で、彼女が一番キラキラと輝きを放っているのは確かだ。
張り出された電光掲示板と競泳場に響いたアナウンスの声が、それを物語っていた。
《ただ今のレース、第一位は4コースの宮前・・・
※
暖かな日曜日の午後だった。信は靴を履いて自宅から飛び出すと、自転車にまたがって走りだした。
ジーンズにポロシャツ、頭にはキャップを被っている。
信は脇道を抜けて坂を下ると大通りに出た。
そこで自転車を停めて、ファミレスの前に宮前の姿をみつけた。
「先輩!」
彼女は近づいてくる信に気付くと、手を振って応えた。水色のインナーにハーフデニムを合わせた格好だ。
「早いな、宮前」
「先輩も。今日は遅刻しなかったですね」
宮前はニッコリと笑うとにべもなく言った。
「デートと寝る時間は遅らせねー主義なんだ」
「ハハハ。じゃ、行きましょっか」
二人は堤防に沿った道を海側に向かって走りはじめた。
信の自転車には宮前が後ろに乗っている。
肩に置かれた手の温もりが背中越しに伝わってくるのが心地よかった。
「どこへいくんだ?」
と信はいった。
「アレ、先輩。覚えてないの?」
宮前がひょっこりと首だけだして聞いてきた。
「へ?何がよ」
「この前『おごって』くれるって、約束しましたよね。思い出しました?」
信は考え込むようにして、それから罰の悪そうな表情になった。
「悪いけど、身に覚えがないな」
「ダメダメ、嘘ついたって無駄ですよ。うーん、なににしようかなぁ・・・」
ケーキか、アイスか、パフェか・・・。信はうんざりした顔で耳元から聞こえてくる声を聞いていた。