二人の三つの季節-1
冬が終わりかけていたころのある日。
僕は隣町の大きなショッピングセンターを歩いていた。
僕の仕事の休みが平日なので、午前中のショッピングセンターは静かなもんだ。
(きょうはだいぶ暖かいなぁー)なんてことを考えながら、中庭に出た時、
(おや?)僕の服をひっぱる手があった。ふりむくと、前髪ぱっつんの小さな女の子が、クチをへの字に結んで僕を見上げていた。
「どうしたの?」と聞く前に女の子は僕の服をひっぱって歩き出した。僕はつられて女の子といっしょに歩いていった。
女の子は僕を自転車置き場に連れてくると、黙ってグイとひとさし指をつき出した。
(ありゃま……)
台座に並べられた自転車の奥の方に、パステルピンクの小さな自転車が追いやられていた。どうやらそれが女の子の自転車(ペダルがない、またいで足を蹴って進むタイプの)らしい。
(取ってくれ、って言いたいんだな……はいはい。)
僕は台座に結びつけられてない自転車を持ちあげてずらすと、そこから女の子の自転車のところまで進んで、片手で自転車を持ち上げると、女の子の前に置いた。
「はい、取れたよ。」
僕が女の子に言うと、女の子は手に持ってた(自転車とお揃いの色の)ヘルメットをハンドルに掛けて、両腕をバッと広げると、
(あっ…………!)
女の子は僕に抱きついてきた。僕のお腹のあたりにグッと顔を押しあてて、小さな腕をせいいっぱい僕の腰に巻きつけてる。
女の子は突然僕から離れると、ヘルメットを手ぎわよくかぶって、自転車にまたがるとサッサと走り去っていった。
一言もなしに、ずっとクチをへの字に結んだままだった。
(ま、あのコにしてみれば、あれがお礼のしるしだったんだろうな。それにしても……)
僕は服のお腹のあたりに手を当てた。
(あのくらいのコの身体って、熱いんだなぁ……。まだ、あのコの当たって所だけ、こんなにあったかいよ……)