二人の三つの季節-3
夏のまっ盛り。
まだ西の空に青い光が残る夜に、仕事帰りの僕はショッピングセンターに立ち寄った。
夏のお祭りが催されていた。
平面駐車場の一つが会場になって、きらびやかなステージとたくさんの夜店とに たくさんの人たちがゾロゾロと群がっていた。
お祭りのふんいきは好きだけど、こんな群衆が苦手な僕は 少し距離をおいて立体駐車場に通じるスロープからお祭りを眺めていた。
(あっ…… !)
スロープにほど近いところにある、夜店で買ったものを食べるコーナーに あの女の子がいるんだ。
僕はポケットから小さな単眼鏡を出してのぞいた。
星座の柄のゆかたを着た女の子が、同じ柄のゆかたを着た女のひとから、焼きそばを食べさせてもらってるんだ。
女の子は手に かき氷の入ったカップを持ってて、焼きそばと交互に口に運んでいる。
かき氷の中にはアイスクリームも入ってるようで、時々クリームが口もとに付くと、女のひとが指先でぬぐい取る。
僕は読唇術とかが出来るワケじゃないけど、単眼鏡をのぞいていて、
(あのコ、ずっと「ママ、ママ」って言ってる。)
と、二人の関係を確信した。
まもなく二人はその場をあとにした。僕もお祭りの会場に向かうことなく家に帰っていった。
(よかった…… あのコとママに、いきなり会うことがなくてよかったよ。
それにしても、あのコ 笑うんだ。あんなに可愛い顔して、ずっと笑ってたよ……)
━━〜━━
夏が終わるころ、僕はショッピングセンターで女の子に会った。
僕は何も言わずに、女の子を抱っこすると建物の中を抜けて、スーパーと専門店街とをつなぐ 渡り廊下の真下に連れていった。
あいかわらずクチをへの字にして何も言わない女の子。だけど、僕に抱っこされたら 自分から両手で僕の身体をグッとつかんでいた。
渡り廊下の真下は、コンクリートで固められた段差になっている。僕はそこに座って、女の子に話しかけた。
「あなたは、なん才なの?」
女の子は指を立てて答えた。
「四才なんだね…… こないだ、夏のお祭りに ママと来てたでしょ。」
(…………)女の子は黙ってうなずいた。
「ママ、好き?」
(…………)うなずいた。
「ママ…… キレイなひとだね。」
(…………)
女の子はうなずいたけど、次の瞬間、女の子はへの字に結んだ唇を僕に近づけてきた。