二人の三つの季節-2
大型連休が終わって、落ちついた春さかりのころ。
僕は 午前中のショッピングセンターの片すみで、また あの女の子とばったり会った。
女の子はいきなり僕の手をとってひっぱった。僕は黙ってついていくと、女の子は立ちどまって、グイとひとさし指をつき出した。
(ん…………)
そこは女性用トイレだった。ところが、中が真っ暗なんだ。
どうやら、明かりをつけてほしいらしい。
僕はしゃがんで女の子より目線を下げて言った。
「ここはね、入り口の中に入ったら明かりがつくの。」
ところが女の子は首をふって、進もうとしない。僕は向かい側の男性用トイレを指さした。
「いい?見ててよ。」
男性用トイレも中は真っ暗だ。だけど僕が入り口から二 三歩中に入ると、センサーが反応して中が明るくなった。
「ほら、そっちのおトイレも こんなふうに明るくなるの。だから入ってみて……」とは言っても、女の子は首をふってばかりいる。
(暗いところがダメなんだな…… でも僕が女性用に入れないし……)
僕は女の子の手をひっぱって、男性用トイレに引きいれた。
「じゃ、僕がいっしょにいるから、こっちでやってしまいなさい。」
女の子は個室に足を向けた。
だけど女の子は、僕の手をつかんで個室の中に来いと言うようにひっぱるんだ。
(仕方ないな……)
僕は女の子と個室の中に入った。女の子は手早く下着を脱いで、便器に近づくと 僕の服をひっぱった。
「え、僕もここにいるの?」
そういうことらしい。女の子は僕に抱きついたまま 便器に腰かけた。
女の子の身体を揺らさんばかりに、オシッコの音が響いてきた。
ずいぶんたまってたようだ。
(甘えんぼだな…… でもこのコの家族、こんなコを一人きりで出歩かせてるのかなぁ……)
女の子はオシッコの音が止むが早いか、サッとトイレットペーパーであと始末すると、僕の方を見ることなくトイレから駆け出していった。
(おやおや、自分のご用がすんだらいちもくさん ですか……)
だけど正直、助かった。
こんな場所で、女の子の知り合いや僕の知り合いに会ったりしたら、それこそ一大事だったからな。