2-1
雄介は麻衣の視界から外れたのを確かめると、携帯を取り出し、見慣れた名前にカーソルを合わせた。
「もしもし」
「雄介なの?」
由紀はすぐにわかってくれた。
「久しぶりだね、ちょっと折り入って相談があるんだけど、今、いいかな?」
「いいわよ」
「ちょっと時間がないんで単刀直入に言うけど、妹に抱いて欲しいとせがまれてどうしたものかと困ってる」
「よく話してた妹さんね? 今、十六? 十七?」
「十六」
「妹さんは雄介を好きでそう言ってるの?それとも単に経験したいだけ?」
「ずっと好きだったって言ってる」
「妹さんはイケイケじゃないんでしょう?」
「至って真面目な部類だと思うけど」
「雄介は? そうしたい気持ちあるの?」
「なければ相談しない」
「じゃ、してあげるべきよ」
「多分処女だと思うんだけど」
「関係ないわ、今時処女がどうのこうの言う男は滅多にいないでしょ?」
「そりゃそうだね」
「妹さんも処女をあげた相手と結婚しなきゃなんて思うほど古風じゃないわよね」
「だろうね、兄貴と結婚だなんてことはさすがに考えられないしな」
「だったら妹さんの望みを叶えてあげたら? 最初の相手として雄介は適任だし」
「そりゃどうも」
「茶化さないで、大事なところよ、そこのところは妹さんが今後セックスに対して嫌悪感を持ったりしない為に必要なところなんだから、セックスは嫌いだけどお義理で応じてくれる娘と積極的に一緒に愉しもうとする娘、どっちがいい?」
「言うまでもないね」
「でしょ? 大丈夫、女は好きな人が出来れば前の人の事は……忘れちゃうと言うわけではないけど思い出の中に仕舞い込んじゃえるの、むしろ引きずるとしたら男、雄介のほう、それは大丈夫?」
「まあ、割り切れると思うよ、なんと言っても妹だしね」
「それなら良いんじゃない? 後は妹さんがしっかり口をつぐんでいられるかね、明るみになったら田舎じゃ大スキャンダルだから」
「それは大丈夫だと思うよ、こっちも念を押して置くし」
「それと避妊はしっかりね」
「それは俺の責任において」
「雄介なら抜かりないわよね、じゃ、優しくしてあげて」
「……あのさ、女性は前の男を思い出にしまいこめるってとこなんだけど」
「……実のところ、付き合ってる人はいるわ、でもまだ雄介のことは思い出の中にしまいきれてない、でも決断しなきゃとは思ってるところ」
「と言うと?」
「相手の人は私を大事に思ってくれてる、最初のうちはまだ雄介のこと忘れられなかったけど、だんだん彼の存在のほうが大きくなって来てるの」
「パーセントで言うと今どのあたり?」
「今、彼80%、雄介20%……くらいかな……」
「俺は身を引くよ、って言うのも変だけどさ、彼を大切にしてあげて欲しい」
「ありがとう……そうするわ」
「お礼を言われることじゃないよ、こっちもけじめがつけられる」
「雄介らしいわね、こうと決めたらスパッと割り切るところ……これが最後の会話になるのね」
「誤解しないでよ、寂しくないわけじゃないんだ、ただ……」
「わかってる、その方がお互いのため……そうでしょ? わかってる……」
彼女の声が少し詰っている……。
「……雄介……きちんと言うね……さようなら……」
「……俺もきちんと言わないとね……さようなら……」
彼女が電話を切ろうとしないので、雄介は心を鬼にして携帯を閉じた……。
(これでいいんだ……)