【溺れる夜】-1
居間でテレビを見ていると、微かに風呂場の戸が開く音がした。
画面の中では、いやらしそうな顔した女子アナが、濡れた唇して何か喋っているけど、俺はその音に耳を傾けた。
微かに空気を揺らし、廊下を歩く音。
ぺたぺたと、素足が床に触れる足音が近づいてくる。
――来るかな?
頭の片隅で、ちらりと一瞬期待したけれど、その音は居間のドアの前を早足に通り過ぎて行った。
やっぱりな。と落胆すると共に苦笑してしまう。
愛花は、近頃俺がいる場所を避ける。親父やお袋がいれば、食卓にも一緒に付くが、二人が席を立った途端、逃げるようにして愛花も席を立つのだ。
朝飯の時でさえ、落ち着いて飯食って無いんじゃないだろうか、あいつ。
それ程、誰もいない場所で、俺と二人きりになるのが嫌なんだろう。
俺に、あんなことを、されたから――。
数日前のバレンタインディの前日、愛花を抱いたことを思い出す。
自分の手に付いたチョコレートを舐める愛花の舌先が、実に淫靡だったから。つい、感情のままに、本能の赴くままに、愛花を、俺の妹を、抱いた。
俺に組み敷かれて泣き声を上げる愛花は、実に可愛かった。目を転じれば、その現場が見える。居間の隣にある台所の、食卓の上。今、お袋が親父にお茶を入れている、そこだ。
あの時の光景を思い出すだけで、下半身に血液が集まっていく感じがするぜ。
にやり。と、思わずほくそ笑んでしまう。
愛花としたら、どうなんだろう?俺に、実の兄に、犯されたということで、下半身が恐怖で締まるのだろうか?
それも悪くないが……。
俺のを、きっちりと咥えこんだ愛花のソコを思い出す。俺の動きに、いやらしい音を立てて、いやらしい汁を溢れさせていた、ソコを。
……。
時計を見る。
明日は朝一から授業なんだが、……ま、いいか。
廊下に触れるぺたぺたと言う音は、今は階段を上がっていく音に変わっている。俺は親父とお袋にお休みを言うと、そっと、居間から出て行った。
廊下は、ひんやりとしている。うちの階段は途中で緩く曲がっているから、愛花からは俺の姿が見えていない。上の方で愛花の足音が聞こえる。
俺は、なるだけ音がしないように階段に足をかけると、ゆっくりと、しかし一段抜かしで上がって行った。
きしっ。
それでも築十数年の家は、微かに音を立てる。俺の立てた音が聞こえたのだろう、頭上で聞こえる、ぺたぺという足音が小走りへと変わった。
逃がすかよ。
俺は最後の数段を一気に飛び越して、二階の一番奥にある愛花の部屋に向かってダッシュした。
ピンクのパジャマ姿の愛花が、ドアの中にその身を滑り込ませる瞬間、俺を見ていたのが分かった。黒目の多い大きな瞳が、これから自分の身に起こるであろうことの恐怖に見開かれていて、こぼれんばかりだ。
可愛い。凄く、その顔は可愛いよ、愛花。
ガッ。
閉じられる瞬間、俺はドアの隙間に右腕を滑り込ませることに成功した。内側でノブを押さえた愛花が、怯えたように俺を睨むのが細長い隙間から見える。
「……」
無言のままドアを閉めようとする愛花の力は、俺の腕を押し潰してもかまわないと思っているかのように容赦がない。
けど、愛花の力じゃ、無理だ。
俺は梃子の要領で、ねじ込んだ腕を起こすようにしてドアの隙間を広げて行き、反対側の手で廊下側のドアノブを掴んだ。
「入れろよ、愛花」
隙間から見える愛花の顔に囁いてやる。
「嫌よ!」
ドアに引きずられるようにして抵抗する愛花が吐き捨てる。
ふん。
口ではそう言うけど、抱かれたら濡れるくせに。
あの時、俺に組み伏せられて泣き声を上げる愛花は、太股に滴るほど、いやらしい汁を溢れさせていた。それは、普段の大人しい愛花の姿からは想像が付かない程、刺激的だった。
あれ以来、廊下ですれ違う度、ふとした瞬間に二人っきりになる度、引き寄せて、体をまさぐるように、その場でヤっちまいたいとさえ思ってしまうんだ。
もっと、もっと色んなコトして、この女を、俺の妹を、俺の下で鳴かせてヤりてぇと、そう思ってしまうんだ。
だから――
いい加減、無駄な抵抗は止めろって言うんだ。
愛花の部屋のドアは、外側から引いて開くタイプのドアだ。俺は半ば開いたドアの隙間に身体をねじ込みながら、廊下側のノブを思い切り引いてやった。内側のノブを握りしめていた愛花は、そのままドアに引きずられて、
「ああっ?!」
俺の腕の中に倒れ込んできた。
「焦らしてんじゃねぇよ、愛花」
腕の中の愛花を抱きしめる。ふんわりとシャンプーの香りがして気持ちいい。
「嫌!離してよ、お兄ちゃん!」
愛花は上半身を捻るようにして俺の腕の中から出ようと藻掻く。俺は、そんな愛花を押すようにして、部屋の中に足を踏み入れた。