【溺れる夜】-8
……。
ヤバイ、と思った俺が、確かにどこかにいた筈なんだが……。
もはや頭の中のどこを捜しても見つからない。
まあ、出しちまったもんはしょうがない。気持ち良かったから、それで良しとしようか?
微かに頷いて納得すると、俺は一気に襲ってきた疲労感と達成感と共に、ドサリと愛花の隣に倒れ込んだ。
隣を見ると、愛花が荒い息を吐きながら、俺が抜け落ちたそのままのポーズで横たわっていた。そのまま動けずに横たわっていて、顔を覆うこともなく、ただ泣いていた。
『愛花を泣かせていいのは、俺だけなんだよ』
その顔を見ていたら、子供の頃の俺の台詞が蘇ってきた。
愛花が誰かにイジメられる度、イジメっ子共を蹴散らしてから、そいつらに向かって宣言していた台詞。
ああ、確かにそうだ。愛花にこんなことして、泣かせていいのは、俺だけだ。
俺だけが泣かせて、イかせていいんだ。俺の、可愛い妹、愛花を……。
「愛花」
俺は手を伸ばすと、ぎゅっと愛花の体を抱きしめた。愛花は抗うこともなく俺の腕の中に収まった。小さな身体は小刻みに震えていて、流れるに任せた涙が、上気した頬を伝い俺の胸へと滑り落ちてくる。
「愛花、泣くなよ」
快楽に溺れるように、本能のままに愛花を抱いたあの時から、何度も抱きたいと思っていた愛花の体。
一度抱いちまったら、歯止めはきかねぇ。妹だからって、何だって言うんだ?……そんなもの。この可愛い声で鳴く愛花を抱くことの方が、重要じゃねぇか。
と、俺は、そう思う。
けど、愛花としたら、どうなのだろう?ここまで泣くということは、やはり嫌なのだろうか?
こんなに濡れて、触れてやると、あんなにいやらしく欲情するというのに?
……。
「愛花」
すべすべとした髪を撫でながら、腕の中の愛花を強く抱きしめる。
「このまま、一緒にいよう」
耳元で囁くように、声をかける。
嗚咽を漏らす愛花の体は、その言葉にピクリと震えた。
「おっ、お兄ちゃん……」
俺の胸に顔を埋めるようにして泣いている愛花の顎に手を掛け、上を向かせる。
泣き腫らした愛花の顔は、普段かなり生意気になってきたとは言え、こうして見るとまだまだ幼くて、まるで子供の頃に戻ったようだ。
けど、もうその頃の俺達には戻れない。
俺は熱く濡れた震える唇に、そっと口づけた。軽く、音も立てない程、軽い口づけ。
ゆっくりと唇を離したら、愛花は俺を見ていた。
「おにぃ、ちゃん……」
熱い吐息と共に、俺のことを呼ぶ。そして、俺の胸元を、ぎゅっと掴んだ。
可愛い。
俺も、そのまま、ぎゅっと胸に押し付けるようにして抱きしめる。
このまま、ずっと一緒に、側にいてやるよ、愛花。
そうしたら――
ふっと口元に笑みが浮かんでしまう。
そうしたら、朝までには、もう一回くらい、ヤれるだろう?
【FIN】