見られながらなんて-1
「すごい……」
由紀子は思わず驚きの声を上げた
江理花に教えてもらったサイトで再生した女性向けセクシー動画の中で、主人公の女は激しく喘ぎ、悦びの声を漏らしている。
由紀子は、男性向けの動画は何度か見たことがある。興味本位で再生してみたこともあれば、夫に付き合わされて見たことも。
しかし、今見ている動画には、明らかに違う点がある。
まず、当り前だが女性視点のアングルが多い。男性用のそれが女を屈服させることに終始するのに対し、受動的に悦びを引き出されていく過程が優しく丁寧に描かれている。
そして、行為に至るまでが長い。運命的な出会い、綿密な人物描写、なかなか進展しない二人の関係……。それらを経て、ようやく事に至るのだ。
しかし、だからといって決してソフトな内容ではない。女は徹底的に体の悦びを与えられ、我を忘れて快楽を貪っているのだから。「こういうのを見て自分でしなさい、ってことなのね?江理花」
確かに、由紀子は少々ムズムズしてきてはいる。しかし、先日の居酒屋とは違って、今彼女は一人っきりだ。自慰を強制する者は誰もいない。体の疼きに対して掛かっている理性のブレーキを壊してしまう江理花はここには居ないのだ。
由紀子は、ふう、っとため息をつき、リビングのPCの電源を切ってトイレに立った。なんだかんだ言いながらも汚れてしまったその部分を綺麗にすると同時に気分転換したかったのだ。
「うわ……」
分泌具合は予想を超えていた。薄い水色の、フリルに囲まれた小さめのパンティを脱ぐとき、ニチャーっと糸を引いた。
由紀子はビデのスイッチを入れ、それを洗い流し始めた。しかし、粘り気が強くてなかなか思うように取れない。
「しょうがないなあ」
彼女は苦笑しながら右手の中指をそこに当てて白濁した液体を掬い取った。
だが、由紀子の秘肉の谷間の内側に粘りついた液体は思いのほか頑固で、簡単には全てを取ることは出来そうにない。
「取れないわね」
もう一度。
その時、由紀子の腰がピクリと跳ねた。
「……汚れたところを奇麗にしているだけよ、私は」
そう言いながらも、指先は単に汚れを取るのとは違う動きを始めていた。
「動画で興奮したせいで自分でしちゃうなんていう恥ずかしいことは出来ないわ」
由紀子は手の動きを元に戻そうとした。
でも、指は止まらない。
グチュ……。
湿った音が、股間から響いてきた。
グチュチュ……。
それはもちろん、由紀子が自分の指で立てた音だ。彼女の右手の中指は秘肉の谷間の内側深くに潜り込み、ゆっくりと、しかし確実に蠢いている。
指の動きが大きくなるにつれ、呼吸も乱れ始めた。肩が大きく上下し、鼻孔を通過する空気の音が、狭いトイレの壁に反射してはっきりと聞こえてくる。
指は谷底を這いまわり、奇麗にするどころか後から後から熱い粘液が湧いてきて、肉の丘の茂みまでもがビチョビチョだ。
やがて彼女の指先が、既にぷっくりと腫れてしまっている肉の蕾の根元へと迫った。
「ああ、ダメよ、ここを触ってしまったら、私はもう……」
そうは思っていても、肉の蕾の疼きが指を呼び寄せ、止めることが出来ない。
「ダメ、ダメよ……」
ピロリロリーン、ピロリロリーン……。 スマホの呼び出し音が聞こえてくる。
由紀子はビクリ、と背中を伸ばし、ヌルヌルになってしまった指と股間を急いでトイレットペーパーで拭い、リビングへと向かった。
『ねえ、見てみた?』
電話は江理花からだった。
「ええ、ちょうどさっき見てたの」
『で、どうなの?』
「女性用、っていう響きから想像してたよりずっとハードだったわ」
『でしょ? で、肝心の話なんだけど……したの?』
由紀子は一瞬返事に詰まった。
『そっか、したんだ』
「それがね、したかどうか何とも言えない感じなのよ」
『何よ、はっきりしないわね』
由紀子は言えなかった。江理花からの電話がなければ確実に最後まで行ってしまっていたであろう事を。
何でも話せる長年の親友だとは言っても、自慰の事なんて簡単に口に出せるような話ではないのだ。
『ところでさ、由紀子。この前の牡蠣鍋の時には言いそびれちゃったんだけどね』
「なあに?」
『あなた、何か悩みを抱えてない?』
由紀子の胸にズンと衝撃が走り、彼女は沈黙してしまった。
『やっぱりか。ねえ、それって私には言えないようなことなの?』
由紀子は耳からスマホを離し、唇を噛みながら画面を見つめた。スマホを持つ手が微かに震えている。
『とりあえず言ってみてよ。それから聞くべきだったかどうか考えるから。どう?』
なんとも江理花らしい物言いに、由紀子の口元が緩んだ。