見られながらなんて-2
「分かったわ。実はね……」
由紀子は、夫の正則が仕事で大きなミスをし、その穴埋めのために自慰を見せろと強要されている件について、手短に伝えた。
聞き終わった江理花は、電話の向こう側で深いため息をついた。
『ヘビィね。残念ながら、私に解決の手助けは出来そうにないわ』
「うん、分かってる。聞いてくれただけで……」
『解決は出来ないけどね、由紀子に一つだけしてあげられる事があるかもしれない』
由紀子の瞳が微かに光を取り戻した。
『どうしても自慰をして見せなければならないのなら、楽しくやればいいんじゃないかと思うの』
由紀子はポカンと口を開いた。
「自慰を楽しく?」
『そうよ。あなた、自慰は恥ずかしくて陰湿なことだと思ってるでしょ? しかも、ほぼしたことが無い。そんな状態で見られながらしちゃったら、恥ずかしさでおかしくなっちゃうんじゃないの?』
由紀子は頷いた。
「そうかもしれないわ。考えただけで体が震えるもの」
『でしょ? だからね、楽しく出来るように、とにかく経験を積むの。いろんな状況、いろんなやり方……。そうすれば、少しはラクになれるんじゃないかなあ』
「江理花、協力してくれる?」
『もちろんよ、任せなさい!』
江理花の心強いセリフを聞いた由紀子は少し心が軽くなった気がした。
電話を切った由紀子は、ふと思い立ち、バスルームへと向かった。シャワーを浴びて体も心もスッキリ洗い流そうと思ったのだ。
サー……。
霧のように細かいお湯の粒が、肩や首筋に弾けて転がり落ちていき、ジワーっと体が温まっていく。
「楽しく自慰をする、か。具体的にはどうすればいいんだろう」
由紀子は水滴にくすぐられている左胸の先端を見つめた。そこは少し硬くなり始めていた。
「さっきは江理花から電話が掛かってきて途中までしか出来なかった。もしも彼女ならこんな場合、じゃあ続きを、ってなるのかな。そういうのが楽しむ、ってことなのかなあ」 下腹部の奥深くに残っている疼きの余熱を感じながら由紀子が呟いた。
「もう一度指を……」
由紀子はシャワーを浴びながら右手の中指を秘肉の谷間へと伸ばした。
「この中へ……」
ジュブリ、と内唇を押し広げた中指が谷底へと到達した瞬間、由紀子はピクっと腰を揺らした。
「ん……んあ……」
由紀子は眉根をキュっと寄せ、固く目を閉じて、自分の指先が動き回る感覚に集中した。
「こんなにヌルヌルになってしまって。それに、シャワーのお湯が当たっているわけでもないのに、なんて熱いのかしら」
手の動きが徐々に徐々に大きくなっていく。それとともに由紀子の呼吸音も大きくなり、タイル張りのバスルームの壁に床に天井に反射して、短く残響している。
不意に、由紀子の手が止まった。そして中指が、ジリ、ジリ、と上がり始めた。その先にある肉の蕾を目指して。
そこは、朝露を浴びた真珠のように瑞々しく輝き、大きく膨れて皮の衣を脱ぎかかっていた。
じれったいほどにゆっくりと進んだ指先がついにその根元へと触れると、由紀子の膝がガクっと折れかかった。
「ああっ……こ、こんなことをしているところを、私、他人に見せなきゃいけないの?」 それは最初、空気が漏れたような音だった。そしてだんだんと大きくはっきりと響き始めた。
由紀子は……泣いていた。
「こんな、こんなことをして」
中指が肉の蕾の周囲を、円を描くように優しく撫でている。
「気持ちよくなってしまっているのを見られてしまうのね」
指先は、蕾を蹂躙するように大きく激しく蠢き始めた。その柔らかい肉は簡単に歪み潰され、快感の波動を由紀子の下腹部の奥深くに送り込んでいった。彼女の膝がガクガクと震えた。
ついに立っていられなくなった由紀子はバスルームのタイル張りの床にしゃがみ込んでしまった。
その正面の壁には大きな鏡が嵌め込んであり、全裸で自分の股間を弄くり回している女の姿が映し出されていた。
長い髪はシャワーに濡れて垂れ下がり、うつろな目には焦点が無く、半開きの口の端からは涎が糸を引いている。
滑らかな白い肌の乳房、その先端の桜色に紅潮した乳首。キュっと絞れたウェストの下に広がる黒い茂みの丘は、中央に走る秘肉の谷間で左右に分かれている。そしてそこから顔を出している肉の蕾は、左右に激しく往復する指先によって擦られ、悲鳴を上げている。
「今、鏡に映っているのを私が見ているのと同様に、こんなことをしている私をまだ一度しか会ったことのない全くの他人が見るというのね」
手の動きが一段と大きく早くなった。
「そして私が、い……い、い、」
由紀子は目を見開き背中を反り返らせた。そして裂けてしまいそうなほどに足を大きく開き、ガクガクと震える腰を突き出した。
「い、い、イク……イク所を見られる、見られながら私は、私はっ、い、イグぅ……」
下腹部の奥の奥からジュワーっと湧き出した快感の奔流が全身を駆け巡り、由紀子の体の全てをビリビリと痺れさせた。
その身の全てを焦がす熱い悦楽に意識は白く飛び、体はビーンと反り返って小刻みに震えた。
「ああっ……」
彼女は一瞬、微笑みのような表情を浮かべ、ガクリとタイル張りの床に崩れ落ちた。
由紀子は、生まれて初めて自慰でイくということを経験したのだ。
霧のように細かいシャワーの水滴が、泣いている由紀子に容赦なく降り注ぎ続けた。