強制された自慰-1
ブラウスのボタンが二つ外され、原谷由紀子(はらたに ゆきこ)のしっとりと白い胸元がテレビ画面に映し出された。
それはテレビの上にクリップで取り付けられた小型カメラによる映像だ。
由紀子は自分で自分の姿をカメラで撮影しながら服を脱いでいるのだ。
しかしそれは彼女自身が望んでやっている事ではない。その証拠に彼女の眉は悲しげに寄せられており、唇が微かに震えている。
有名私立女子大を卒業した由紀子は、親の勧めで入社した大手メーカーで事務を数年務めた後、今の夫の正則(まさのり)と社内結婚した。
正則はごく普通の家庭に育った平凡な経歴の男だが、人柄の誠実さと確かな技術力で社内での評価は高く、将来を約束された人材だ。三十五歳になったばかりだというのに、既に第二開発部部長の要職に就いている。
子供はまだいないが、仲の良い夫婦としても知られており、二人は公私ともに充実した人生を送っている……はずだったのだが。
「はあ……」
ため息とともにボタンがもう一つ外されて、ギリシャ彫刻の様に魅惑的な深い胸の谷間と、その上に被せられたベージュのブラが現れた。
ブラは生地と同色の立体的な刺繍の施された布に細かなフリルのあしらわれた上品なもので、大人の女の気配を色濃く匂わせる由紀子によく似合っている。
ボタンを一つ外す度、由紀子は小さなため息を漏らして画面をチラリと見る。それは、今彼女が見ているのと全く同じ映像が、彼女にこのような撮影を強いた者の目に全て晒されてしまうという事が分かっているからだ。「どうしてもして見せなくてはなりませんか?」
ブラウスの最後のボタンに手を掛けた
由紀子が、懇願するような目でカメラに語りかけた。しかし、当然ながら返事は無い。
「他に方法は無いのですものね」
由紀子は唇をキュっと結び、震える手で最後のボタンを外した。
諦めと恥じらいのため息と共に脱がれた上品なシルクのブラウスを、由紀子は丁寧に畳んでソファーに置いた。
テレビ画面の中の女が背中のホックを外し、肩紐をずらしていくのを由紀子は他人事のように見つめている。そうでもしなければとても耐えられそうになかったのだ、全くの他人に見せるためにブラを外して胸を露出させるだなどということに。
右の肩紐が完全に下され、彼女の右乳房の上半分が零れ出た。それは最高級の陶器のように白く滑らかな肌をしており、尚且つ触れただけで溶けてしまいそうなくらい柔らかそうに揺れている。
左の肩紐も外された。
重力に従ってハラリと捲れ落ちそうになったブラを、由紀子は思わず両手で押さえた。しかし、それが許されない行為であるという事を彼女は十分に理解しており、その手は深く躊躇いながらも下された。
由紀子の乳房の全てがカメラに捉えられ、テレビに映し出された。
三十歳を幾つか越えた今の彼女の胸には、二十代の頃の様な青い勢いは感じられない。しかしそれでも、いや、そうであるが故に、その乳房は熟された豊かさを感じさせ、人生経験を積んだ女の深みと色香を纏っている。
胸元の裾野から緩やかに大きく立ち上がっていく、重量感あふれる白い肉の山。たわわに揺れるその頂上には、ギュっと凝縮されたように硬くなった桜色の乳首がツンと斜め上を向いて起ち、熟れた先端は今にも何かが染み出しそうな程に瑞々しい。
その姿は全て録画され、他人の目に晒されることが決まっている。
由紀子はいたたまれなくなり、もう一度胸を隠そうとしたが、その手を必死の思いでなだめた。
「見られると分かっているのに……」
由紀子の左手が動き始めた。自分の右乳房へと向かって。それは、隠すためではなかった。
「こんなことをしなければならないのですね」
中指の先が、普段より早くなってしまった彼女の呼吸に合わせて揺れる乳首に迫った。 由紀子は触れるのを躊躇い、テレビの画面を見た。
そこには、自分の乳首に触れようとしたまま動かない女の姿が映し出されていた。
「しなくては。私はしなくてはならないの。そうでなければあの人が……」
由紀子はため息を漏らしながら数回首を振り、意を決したように唇をキュっと結んで、自分の乳首の先端に中指の腹でそっと触れた。
「ん……」
思わず声が漏れた由紀子は慌てて画面を見た。カメラにはもちろんマイクが付けられている。今の声も録音されたことだろう。
彼女は、恥ずかしさに頬を染めた。
だが、そこでやめるわけにはいかないのだ。彼女にはそうしなければならない理由があるのだから。
由紀子は歯を食いしばり、改めて自分の乳首に触れた。
彼女の顔に明らかな狼狽の色が浮かんだ。目が泳いでいる。胸の奥にジンと快感が染みたことを、カメラの向こうにいる人物に悟られはしなかったかと心配しているのだ。そんなことを心配しても意味がないと知りつつも、恥じらいが彼女をそうさせた。
由紀子は目を閉じて俯いた。そして小さく息を吐いて顔を上げると、乳首に触れている自分の指先を動かし始めた。
「う……うぅ……」
もう声を抑えようとはしない。レンズの向こうの鑑賞者は彼女が自分で自分の体に刺激を与え悦楽を感じている姿を見たいのだ、という事実を受け入れたのだ。