強制された自慰-2
「んあっ、あはぁ……」
さっきよりもさらに硬さを増した乳首が由紀子自身の指先によって擦られ歪められる度に、彼女は感じるままの声を漏らした。
「はあ……、はあ……」
いつの間にか由紀子の呼吸が乱れ始めていた。見られていると分かっていても、弄れば体は感じてしまう。そして感じてしまった体は更なる快感を要求し、彼女を興奮させてしまうのだ。
「ああっ、ああっ!」
由紀子の指の動きは、徐々に、徐々に大きく強くなっていった。
乳首はほとんど乳房に埋没するほどに強く擦られている。
「ん、んあっ、あぁ……」
指先が高速で往復を始めた。それは乳首の上側と下側を交互に強く擦り上げることとなり、由紀子はますます息を荒げていった。
「ああっ、あ、あ、あ、あはぁ……」
眉根をキュっと寄せ、目を強く閉じて、乳首から胸の奥へとジンジン染み込んで来る快感に集中していた由紀子は、ふと目を開けてテレビ画面を見た。
だらしなく口を半開きにし、顔を紅潮させて快楽に耽っている女がこっちを見つめている。
そしてその女は口元に薄い微笑みを浮かべると、スカートのサイドホックを外し、ファスナーを引き下ろした。
深いドレープのついた上品なダークブラウンのロングスカートは、重力に引かれて毛足の長い絨毯の上にパサリと落ちた。
スカートという隠れ蓑を奪われた由紀子の下半身に残るのは、ブラとお揃いの淡い刺繍の入ったベージュのパンティのみだ。
その中央部分は湿り気を帯び始めており、中が微かに透けて見えそうになっている。
由紀子の右手が、白い腹を這い下りながら自分の下腹部へと向かって動き始めた。
「ああ、私はなぜこんなことをしているの? なぜしなければならないの?」
その答などとうに彼女は知っている。それでも問わずにはいられないのだ。そうでもしなければ、とても耐えられないほどの恥辱の中に、由紀子は居た。
カメラで撮影されていると知っているのに自慰をし、しかもその刺激に対して体は正直に反応してしまっているのだから。
「ああ、どうしてこんなことに……」
それは、いつもと変わらない夜のはずだった。
帰宅した夫の正則の様子がおかしいことに気付いた由紀子が訳を尋ねると、正則は悲痛な顔で話し始めた。
「由紀子、太田(おおた)副社長を覚えているか?」
「太田副社長?」
「ああ。新製品の開発での業務提携を記念したパーティの席で紹介したはずだけど」
由紀子は小さく首を傾げた。
「ごめんなさい、覚えてないわ。あの日はたくさんの方にお会いしたから」
「そうか。その方がむしろいいかのしれないな」
正則は俯いて黙り込んでしまった。
「あの、その方が何か?」
「あ、うん。その太田副社長が……ああ、言えない。僕からはやっぱり言えないよ」
正則はスマホを取り出し、電話を掛け始めた」
「……はい、ええ、そうです。……ええ、そうなんです、常務。僕からはとても……はい、はい……助かります」
正則は無言でスマホを由紀子に手渡した。
「もしもし、お電話代わりました」
「もしもし、原谷君の上司の山村(やまむら)と申します。初めまして」
「いつも主人がお世話になっております、由紀子と申します」
「さっそく本題に入らせていただきますが……奥さん、自分でして見せて下さい」
「あ、あの、何をですか?」
「自慰ですよ、オナニー」
由紀子は目の前が真っ白になって立ち尽くした。
「もしもし? 奥さん?」
「あ、はい」
「太田副社長、分かりますか?」
「申し訳ございません。お会いしたはずなのですが、思い出せないのです」
「そうですか。提携先の副社長さんなんですけどね、大変お怒りなんですよ、原谷部長……あ、ご主人ですね、ご主人のミスで」
「原谷が何か?」
「新製品の開発でね、提携契約外の技術を無断で使ってしまったんですよ、件の新製品に」
「はあ……」
「奥さんにはお分かりになりにくいかもしれませんが、それはビジネスの世界ではあってはならないことなんです」
「よくは分かりませんが、原谷のミスで太田副社長が怒ってらっしゃる、ということなのですね?」
「ええそうです。でもね、奥さん、あなたが自慰を見せてくれるなら、なんとか穏便に事を収めてやろうと言って下さってるんですよ」
「あの、話の筋がよく見えないのですが」
はあ、っと、電話の向こうの部長が息をついた。
「要するに詫びを入れろ、ってことですよ、奥さん」
正則は祈るような眼で由紀子を見つめている。
「どうして私が……」
「お気に召したらしいんですよ、あなたを。あのパーティの席でね」
「そう言われましても」
「奥さん、あなたは事の重大さをまだ分かってらっしゃらないようですね。本来なら使ってはならない技術を使って開発された商品の生産が既に始まっているんです。しかも広告も盛大に打っている。これが契約違反という理由で発売できなくなったら?」
「大きな損害を与えてしまう、ということですか?」
「損害なんてレベルじゃ済まないかも知れません。会社の経営を揺るがしかねないんですよ、今回の件は」
「そんなにとんでもないことをしてしまったのですか、原谷は」
正則は小さくなって震えている。