Requiem〜後編〜-13
幸いにして他の誰とも出逢うこともなく、
限られた灯火だけでぼんやり照らされる人気のない廊下を足音をたてることなく抜け、
セリスはセッツァーの寝室のドアの前に立った。
一呼吸おいて、恐る恐る2度ノック。
部屋の中から返答はない。
暫しの沈黙、そして静寂。
───キィィィ・・・・・・
ふとドアノブに目をやれば、
微かな軋みと共にドアノブがゆっくりと回転し、
ドアが内側から静かに開かれていく。
見たところ、室内に灯りは点されていないようだ。廊下からは室内の闇の中を見極めることはできない。
(・・・・・・・)
次の瞬間、
静かに開いていくドアの向こうから伸びてきた手が彼女の右手首を掴み、
そのまま一気に室内に引っ張りこむ。
窓際周辺以外に明るさのない部屋の中へ。
セリスの背後でドアが閉まるのと、
彼女が嗅ぎ慣れた紫煙の香りの染み付く肉体に抱きすくめられたのはほぼ同時だった。
───ギュウゥ・・・・
「セ、セッツァー・・・・」
「セリス・・・・・」
耳許で自分の名を囁く男に答えようとしたセリスのピンクの唇は、次の瞬間男の唇に覆われ、滑り込んできた舌がセリスのそれと絡み合う。
「ん・・・・・」
セッツァーに両腕ごと抱きすくめられ見上げる形のまま舌を絡ませあった後、
ゆっくりと離れていく唇の間に透明の糸がゆっくりと引かれていく。
先程抱き締められた時に気付いたが、
セリスを室内に誘ったセッツァーは既に何も身に付けていなかった。
密着した時、直接彼の筋肉の蠢動や胸の鼓動、更には押し当てられた下腹部の熱を直接感じとることができたのだから。