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10.
義男とねねが出会ってから丁度十年が経った。
そして、完全に身を引いてからでも八年になる。
身を引くきっかけになったのは翔とねねの些細なケンカだった。
義男が両者の言い分を聞けば、なんと言う事はない。
翔は名門大学の学生、その学園祭に連れて行ってもらったねねは、翔が同期の女子学生と親しげに話したり、あわよくば未来のエリートを捕まえたいと目論む女子高生達に囲まれて笑顔になるのを見て拗ねてしまったのだ。
後日、ねねときちんと話して見ると、女子大生や女子高生に比べて、自分が子供っぽいと引け目を感じて焦ってしまったらしい。
翔と話してみても、女の子達に囲まれれば悪い気はしないものの、ねねが一番好きな気持ちは変わらないと言う、むしろそれを疑われたような気がして腹が立ったのだと……。
そして義男は二人をファミレスに誘って仲直りさせ、それ以来ねねの体には触れていない。
翔とねねはその後も小さなケンカはあるものの、今でも続いている。
ねねは子供の頃のぽっちゃりした感じはすっかりなくなり、すらりとした程好いプロポーションになっている、そして愛嬌のある雰囲気はそのままに綺麗になって来た。
先日、翔と会った時、商社勤めの彼は海外転勤を打診されているらしい、まだ決まったわけではないがおそらくそうなるだろう、そしてそれは区切りをつける良い機会になるかも、とも言った。
ねねがどこにでも付いて来てくれるのならどこにでも連れて行きたい、と。
義男は、おそらくねねはどこへでも付いて行きたいと答えると思っている。
義男はと言えば、未だに独身なのに変わりはないが、境遇はかなり変った。
ねねから身を引いてからしばらくして、義男は初めてエロ漫画ではない作品を画いた。
やはり小五の少女を主人公に据えたものだが、大学生が少女に恋してしまうというストーリー、いわゆるエロ漫画ではないが、義男が描く少女にはそこはかとない色香が漂い、物語にリアリティを与えるだけでなく、直接的な描写がなくともエロティックな雰囲気をかもし出す。
その原稿をとあるレディースコミックの編集部に持ち込むとすぐに取上げられた。
当初は単発の予定だったが、その作品は好評を得て改めて連載となり、TVドラマ化までされるヒット作となった。
こうして人気漫画家の仲間入りをした義男だったが、寝る間も惜しまねばならない週刊誌への連載は断り、月刊誌への連載とイラストの発表に絞っている。
それでも単行本やイラスト集の印税などもあり、経済的にはかなり潤っている。
小太りはそのままだが、髪も無精ひげもきちんとし、眼鏡も薄型レンズの高級品に変っているので見た目のオタクっぽい不気味さも影を潜めている。
そして、今、義男には彼女がいる。
義男の出世作を取り上げてくれた女性編集者、二十も年下だったねねと反対に五つ年上の女性だ。
彼女とのセックスはねねとのそれと違って、穏やかでムーディなもの、しかし物足りなさは感じない、もしねねがいなかったらそんな性生活では満足できなかったかも知れないが、ねねは義男のロリータ趣味を充分に満足させ、3Pに至るまでほとんどどんなプレイも受け入れてくれたので、義男はそこから『卒業』できたのではないかと思っている。
彼女は既に四十五歳、結婚するならそれほど待たせるわけには行かないだろう。
翔とどっちが先になるのかな……そんな事を考えると、ちょっと負けられないという気にもなる。
そんな事を考えながら義男はネクタイを締めた。
今日は彼女とディナーの約束があるのだ。
（宝石店って、何時頃まで開いているのかな……）
義男はそんな事を考えている自分が少し可笑しくなった……。
（終）