Requiem〜前編〜-9
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───ザクッ、ザクッ、ザクッ・・・・・
フィガロ城周辺の砂漠の暑さには及ばないが、海風が感じられるだけましだと思える日差しを肌に実感しながら、セリスは砂浜を横断し、森を抜け、
懐かしい小屋の前に立っていた。
ここまで来るのにモンスター1匹出会うことなく、
遠くから微かに動物や鳥の鳴き声が聞こえてくるだけの静かな空間。
その空間に佇む小屋についても原型を留めてはいるものの、
長年の風雨によって屋根や壁が崩れ、
雑草がいたるところから顔を出し、
周囲の木々から伸びてきている蔦が所々に絡み付き、
改めてセリスに時の流れを実感させることになった。
(・・・・・・・・・)
錆び付いた扉を開けて中に足を踏み入れてみると
室内は屋外以上にかつての原型を留めておらず、
セリスの記憶に残る室内の面影を微塵も感じさせない。
(何だか、あの時間も夢のよう・・・・でも、やっぱり事実なのよね。私の中では)
残骸散らばる小屋の中を進みながらセリスは思わず自問する。
壁のあちらこちらに亀裂が走り、そこから日の光が漏れているシドの寝室跡に足を踏み入れ、
シーツや毛布が残骸となっているベットの上に手にしていた薔薇の花束をそっと置く。
再びここに足を踏み入れることはあるのだろうか。
そんな思いに浸りつつ、セリスはその場に片膝をつき静かに目を瞑り、思いに浸る。
(シドおじいちゃん、どうか安らかに・・・・でも、おじいちゃん。貴方は想像もしていなかったでしょうね。貴方が助けた少女か1国の王妃に上り詰め、こうして多情な女になってしまうなんて─────)
セリスにとって濃密で静寂に包まれた墓参の時間がようやく幕を下ろす。
静かに腰をあげると後ろを振り返ることなく、シドと共に過ごした小屋を後にした。