Requiem〜前編〜-8
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────ヒュン、ヒュン、ヒュン・・・・
───プロペラの回転速度を落としつつ、ファルコン号の船体がほぼ垂直に下降していく。
近づいてくる真下の情景、そして着陸予定の白い砂浜が操舵室の窓からもはっきりと識別できるようになった瞬間、
───ザバアァァ・・・・
砂浜に乗り上げる形でファルコン号はその島の土を踏んでいた。
かつて世界崩壊後にセリス自身が流れ着き、育ての親であるシド博士と2人きりの時間を過ごした“孤島”である。
眠り続けたセリスを世話してくれたシド自身が生涯を終えた地でもある。
セリスにとっては、シドの墓に次ぐ魂の場所でもあるのだった。
────ファルコン号のエンジンが完全に停止する。
着陸場所の選定から速度調整、そして着陸直後の的確な操舵により、身体にほとんど衝撃を感じなかった。
改めて傍らに立つセッツァーの腕に感嘆しつつ、
セリスはじんわりと滲む額の汗をぬぐい、
久しぶりの島の暑さを思い返していた。
飛行中には実感しなかった暑さに、
セリスは無意識に身にまとっていた黄色の上衣を脱ぎ去る。
上衣の下に身に付けていた胸と腹を覆う緑色のタキシードだけになると、熱によって赤みがかった胸元が露になり、上衣の下に隠っていた汗と体臭が辺りに発散される。
セッツァーに背を向けたままの彼女の所作に彼は無言のままで眺めていた。
そんな彼の視線を意識しつつ、
セリスも無言で金髪をかきあげる。
空中に波打つ金髪から飛び散る汗が、室内に漂う空気を知らず知らずのうちに濃いものにしていた。
────世界崩壊後初めて訪れる島は、昔と変わらぬ静けさと佇まいの中にあった。
一応護身の為に腰には愛用の剣をさし、肩口や両腕を露にしたまま、飛行船から伸ばされたタラップをゆっくりと降りていくセリス。
部屋を出る時、一応他の2箇所と同じようにセッツァーにも墓参のお供を頼んでみたのだが、
「俺は一服しながら待っているよ。折角の墓参りだ。死者との語らいは1人の方が落ち着いてできる」
という理由付けで体よく断られ、
結局暗くなる前に飛空艇に戻るとセッツァーと約束して、
セリスはあらかじめ用意していた花束を持ってかつてシドと暮らしていた小屋に向かって歩みを進めていった。