Requiem〜前編〜-18
「あ・・・・・」
セッツァーに横抱きにされたまま船外に出たセリスの鼻先を、
小さな光がふわりふわりと横切った。
「蛍ね・・・・綺麗・・・・」
「大陸と違って島自体が汚れていないせいだろう」
よくよく眼をこらせば、飛空艇の周辺に3つ、4つ・・・と同じような光の玉が空中を漂っているのが見えた。
「蛍は死者の魂が宿っているとも聞いたことがある。死者の魂を慰める為に、女らしくなったお前を見せてやることも悪くないな」
「そんな・・・・・」
セッツァーの言葉に気恥ずかしさを覚えたセリスだったが、同時にセリスにとって屋外での交わりを“見られること”に人知れず興奮を覚えていた。
雨が上がったばかりのデッキは濡れていたが、上半身裸のセッツァーは揺らぐことなくしっかりとした足取りでデッキを進み、地上に下ろされていた桟橋を一段一段ゆっくり降りていく。
今更ながらセッツァーも素足だったことに気づいたセリスだったが口には出さなかった。
そんなセッツァーに横抱きにされたスリップとショーツ姿で裸足という無防備同然のセリスは、彼の首に両腕を回しその身を預けていた。
─────ギシィ・・・ギシィ・・・ギシィ・・・・
「・・・・足元、大丈夫?」
「問題ないさ。それよりお前こそ寒くないか?」
「大丈夫よ。雨上がりのせいかしら、空気がぬるい感じがするわ」
やがてセッツァーの足は砂浜に降り立ち、そのまま2人は砂浜を横切っていき、砂浜の一角に生えている椰子の木の下で止まった。
空気中を漂う無数の蛍が、まるで2人を迎えるかのように、一匹また一匹と
2人の周囲に集まってくる。
木の下は湿っている程度で雨による水浸しからは避けられていた。
いつの間にひっかけていたのか、
自身のトレードマークでもあるコートを、セッツァーは左腕からスルリと落とす。
そして足元の砂の上に広がったコートの上にゆっくりとセリスの白く引き締まった身体を仰向けで下ろした。