Requiem〜前編〜-13
―――キィィィ・・・・・
ようやく談話室の入り口にたどり着くと、
なるべく音を立てないように静かにドアノブを回し、
素早く部屋の中に滑り込んだ。
幸いにして談話室には彼が寛いでいた机の上で小さな燭台が微かな光を放っており、部屋の状況はぼんやりとではあるが把握することができた。
─────案の定、ソファの上で彼は毛布を上体にかけて横になっていた。
視界の片隅に彼の姿を収めつつ、
鼓膜に彼の寝息を聞きながら、
セリスは絨毯の上を音をたてることなく、
居間を抜けて冷蔵庫のあるカウンターにたどり着いた。
―――ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ・・・・・
「ふぅ・・・・・・」
冷蔵庫の中で冷やしていた水入りの容器の中身を口に含み、2度3度音をたてながら一気に飲み干す。
何とか喉の渇きも落ち着き、漸く一息ついたセリス。
窓の外では相変わらず風混じりの雨が吹き荒れている。
「セリス・・・・・・」
「え・・・・・?」
「お前を・・・俺はずっと・・・・お前しか・・・・いない・・・」
「!!?」
小さな声だったが確かに紡がれたセッツァーの呟き。
一瞬彼が起きたのかと思い、思わずカウンターからセッツァーの横たわるソファの傍らに立ち彼を見下ろすセリス。
ソファに仰向けに横たわっているセッツァーに変化は見られない。
寝息をたてながら脱力しているままだ。
ただ先程は暗闇のせいもあり、そこまでまじまじと見たわけでもなかったが、
ソファに身を横たえるセッツァーは上半身裸をむき出しにして毛布を胸元付近にかけてある状態だった。彼も知らず知らずのうちか寝苦しさを感じていたのだろうか。
だがセリスにとって心に沸き立ったさざ波を沈めようとするのに内心必死だった。
微かな灯りにより視界に映る頑健な肉体に無数に刻まれた傷痕、
そして夢かうつつか、セッツァーの寝言に秘められた“告白”。
結局セリスは身じろぎすることすらできず、その場に立ちすくんでしまっう格好になった。
心臓の鼓動が高鳴り、
肌が熱を帯びはじめ、
頬に赤みがさすのが分かる。
セリス自身の身体の中で“何か”が激しく猛り狂い始める。
セリス自身の脳裏に、戸惑いを越えた別の感情が浮き上がってきていた。
今まで無関心を装っているように見えながらも、
最初にセリスと出逢ってから今の今まで、
彼がセリスをしっかり
“女”として意識していたということに対して――――