メリッサ-2
「風呂とトイレはたった二人なんだから交代に入れば問題無いでしょう」
「一緒に入っても問題は無いけどね。いやいや、今のは冗談」
「寝るのはそっちに貴方が寝て私はこっちの部屋に寝れば問題無いでしょう?」
「いやあ、それはやっぱり困るな」
「そんなこと言っても私はもう今までの部屋を解約してデポジットを返して貰ったのです。だから此処が駄目だと私は寝る所が無いのです」
「そんなこと言われてもなあ。それにそんなせっかちに解約してもルームメイト希望者が大勢来てたらどうするつもりだったの? 他の人を選んだかも知れないじゃないか」
「ルームメイト希望者は私だけです」
「そりゃまあ今のところはそうみたいだけど、明日あたりから反応が出てくると思うよ。きっとわんさか希望者が現れる」
「ですから希望者は私以外には現れません」
「そんなことどうして分かる?」
「貴方の広告には7時50分掲示と書いてありました。私が貴方の広告を見たのは7時52分でした。その時掲示板の周りには誰もいませんでした」
「そんなこと言ってもその後大勢希望者が見てるかも知れない。大体学生が掲示板を見るのは昼頃なんだ」
「いいえ見ていません」
「そんなことどうして分かるんですか?」
「何故なら貴方の広告は私が持っているからです。ほら、これです」
「あっ」
「希望者が他にもいると困るから私が直ぐ剥がしたのです」
「それはまあ。なんてこった」
「だから私に貸して下さい」
「そんなこと言っても女では困る」
「どうしてですか?」
「どうしてって親が訪ねてきて女がルームメイトだなんて分かれば大変だ。第一貴方だって僕が男とは思わなかったんでしょう」
「そうですけど、もう部屋を解約したのだから此処を貸してくれなければ困ります」
「困りますって言っても、僕も困る」
「だって貴方の名前が悪いのです」
「そんな、僕の名前が悪いって言われても困る」
「貴方は、困る困るって言っても何も困って無いでしょう? 私は住む所が無くて本当に困っているのです」
「ちょっと。ちょっと待って」
「お金なら払います、ほら3万円」
「いや、まだ話は付いてないんだから荷物なんか出したら困るってば。金なんか受け取れないよ」
「この部屋のドアに鍵を付けてもいいですね?」
「いや、まだ貸すとは言ってないんだから」
「大丈夫です。貴方の親が来る時は私は友達の所に行ってます」
「いや、まあそれだけじゃなくて」
「他に何かありますか?」
「だから風呂とかトイレとか」
「それは交代で使えば問題無いでしょう?」
「いや、一緒に使ってもいいんだけど、僕が言うのはそういうことじゃ無くて」
「どういうことですか?」
「同じ屋根の下に夫婦でも兄妹でも無い男女が一緒に住むっていうのは問題だっていうことを言っているんだ」
「さあ? 一緒に住んで何か問題が出てきたらその時に相談して解決しましょう」
「いや、とにかく困る」
「それじゃ取りあえず1ヶ月テストしましょう」
「いや。寝る所が無くて困ってるなら今日はそこに寝てもいいから明日出ていってくれないかな」
「明日なんて無理です。それじゃ1万円払うから取りあえず10日間テストしましょう」
「じゃ、10日間1万円でいいから、その後はもう駄目だよ」
「有り難う」
ということで和彦はとうとうメリッサに粘り負けてしまった。10日くらいは直ぐに経つだろうし、そもそも女の彼女の方が我慢出来なくて10日もしないで出て行くだろうと思った。
しかしその夜から早速和彦は不自由を感じだした。取りあえずリビングダイニングの一部をカーテンで仕切ってみたが初めからその為に用意して置いた訳では無いのでカーテンの丈が足りなくて下が50センチ以上も開いている。丈の長いカーテンなのだが、天井に直接カーテンを釘で打ち付けたからである。これでは寝ているところなど丸見えである。別に見られて困るということも無いが、トイレや風呂に来る彼女を覗き見しているように誤解されるのは嫌らしい。早速明日長いカーテンかそれともカーテン・レールの代用にする針金でも買ってこなければならない。