幸田美咲の正体-5
−そっか。悠子さんと一緒に陽子さんも来てたのか−
−何をごちゃごちゃ言ってやがる。お夕、今度は反対にお前を封印してくれるわ。わしが昔みたいに非力じゃないことを思い知るがいい−
−だ・か・ら、あたしは優子だってば。悠子だよ。陽子でもあるよ−
−うるさい!だったらお前がお夕であろうが無かろうが関係ない。お前の意識なんぞ永久に縛り付けてくれるわ−
−無理だと思うよ。だって今のあたし、凄い力を持ってるみたいだもん。お夕さんの真似くらいはできるかもよ−
−なんだと!お前もお夕並みの特別の力があるというのか−
−うーん、そのお夕さんが特別だったんじゃないと思うよ。あたしが特別じゃないようにね。いやいや、優子ちゃんは特別でしょ。そうね、特別に変でエロいんだから−
−何を言ってやがる。特別じゃないならどうしてお夕みたいなことができると言うんだ−
−それはね、各務宗家の血に愛されて精を受けた女は、各務家が危難の時に宗家に代わって力を得るのよ。宗家が暴走した時に自衛する力も備えられてるってこと。あんたを封印したお夕さんも、当主に愛されて力を得ていたの。それを知らずに妬んだあんたは封印された−
陽子のイメージが説明をした。
−そうよ!愛する星司さんの精子って凄く力になるんだからね。あっ、でもあたし受け入れてないよ。何言ってるんですか。陽子さんも中出しされたあたしのおまんこ、美味しそうに舐めてたじゃないですか。あ、そっか−
−黙れ黙れ黙れ!いくら封印されようが、こうしてわしの子孫、各務の血の流れの者に宿り続けられるんだ。各務の宗家にこんな真似ができまい−
―バカじゃない!そんな真似、頼まれてもやりたくないっての―
−何とでも言うがいい。いくら封印しようが、各務の血に心弱き者が現れたら何度でも出てきてくれるわ。今のご時世はそんな者ばかりだからな−
−『何度でも出てくる』って?それは無理ね−
−無理なもんか。最後はわしが君臨することには変わりはない。封印なんて無駄なことはやめてわしを受け入れろ−
−誰が封印するって言った?封印なんかしないよ。封印しても無駄みたいだしね−
−あはは、そうだろそうだろ。お夕はなんとかわしを封印したが、お前にそんな力があるとは思えないしな。もし、あったとしても、お夕の時みたいに自分も命を落とすはめになるぞ。お前も無駄死にしたくないだろ。どうだ。頭を下げれば新当主の伴侶として共存してやってもいいぞ−
−ホントバカ。陽子ちゃんが言ったのはそんな意味じゃないの。あんたが相手をしてるのは【お前】じゃない。【お前達】よ。お夕さんの時みたいに1人じゃない。星司くんに愛された3人がかかれば命掛けで封印する必要はない。あんたなんか軽く捻って即滅却よ!−
逞しくなった悠子のイメージが畳み掛けた。
−さ、3人だって!バカな…意識が重なってる…。どうしてそんな事が…−
−やっと気づいたみたいね。どうして?さあ?幽体のあたしが接着剤の換わりになったみたいね。そっかぁ♪−
3人の意識は納得した。
その隙をみた各務の闇が、美咲の記憶の奥に逃げようとした。しかし、3人の意識には死角はなかった。
−あっ、こら!待ちやがれ!逃がすわけないでしょ!人の弱味に付け込むお前だけは癒すのは無理!−
重なる3人の女のイメージが輝き始めた。
−よ、よせ!−
−星司さん(星司くん)(星司)をっ!−
−やめろ!−
−廃人にして各務家を乗っ取ろうなんて100万年早いんだよ!−
−ぐううっ−
−お前なんて消えてなくなりやがれ―――っ!−
その瞬間、美咲の心の中の小宇宙が激しい光に包まれた。
−くっ、こ、こんな光なんぞ…−
−『やがれ』って、陽子さんたらもう少し上品に言えないの?それあたしじゃないよ。え―っ、悠子さんなのお――!あはは、気持ちよかったあ−
優子の驚きに陽子と悠子の弾んだ心が混ざり、光は益々輝きを増していった。
−ギャ――――ッ−
その強い光は各務の闇を瞬時にかき消すと、その反面、美咲の悲しく辛い記憶を優しく包み込んでいった。
強い光は美咲の記憶の中の悲しく辛い想いの大半を浄化させると、ほんの僅かに残したそれらの想いを、記憶と共に美咲の心の中に封印した。
美咲が自分の過去に向き合える時に備えて。
やがて役目を終えた光は弱まりその輝きが消えると、美咲の心の中には3人の意識の重なったイメージだけが残っていた。
各務の闇は完全に消えていた。