受け継がれる世界-2
目を見開き、茫然とする彩音。
「そのまま百八十度回転して、私の顔の上にお尻を持ってきて。」
「あ、は、はい。」
凜花から指を抜き、言われた通りにする彩音。
「まあ、もうすっかりジュクジュクね。」
「だ、だって、先輩の腕といっぱい擦れ合ったから…」
「今度は擦るんじゃなく、入らせて。」
「…。」
「怖い?」
「怖い…ですよ。」
「一応訊くけど、初めて?」
「ええ。」
「そりゃ怖いわよね。」
「はい。私にとって唯一の初めての相手になってくれるのが大好きな凛花先輩で、これ以上嬉しいことはありません。だけど…」
「その感覚、正常かつとても大切よ。それを知ったうえで敢えて言うわ。あなたのここに、私を入れさせて、彩音。」
「凜花…。」
彩音が尻を突き出した。無言の了承だ。凜花の中指がそこに迫る。入り口に触れた。
「う…」
彩音が身を固くした。
「好きよ、彩音。あなたは私のもの。」
ジュブゥ…。
「はうぅっ!」
初めての激痛に彩音は身を震わせ、声をあげた。
凜花の中指に、一筋の赤い雫が流れた。それは指を離れて宙を落下し…。
ピチョン。
凜花の舌に受け止められた。彼女はそれをゴクリと飲み込んだ。
その瞬間、全ての照明が消えた。
「契約、成立。」
「契約…?」
完全なる闇の中で発せられた誰かの呟きの意味を問う余裕は、彩音には与えられなかった。彼女の中に入った凜花の指先が角度を変え、彩音の敏感なスポットを直撃したから。
「あはうぅ…う、うぅ…」
キツく目を閉じ、眉根を寄せて、大波の様に下腹部にジンジンと襲い掛かってくる猛烈な快感に必死に耐える彩音。 「彩音、あなたも私の中で動いて。」
「せ、先輩…動き方なんか…分かりま…せん…よ…」
彩音はようやくそれだけを言って身を捩り、横向けに倒れた。凜花もそれに合わせて横向きになり、二人は向かい合う形になった。ただし、彩音は百八十度回転しているので、それぞれの目の前には相手の下腹部がある。漆黒の闇の中ではそれは見えないが。
「思い出して。クラリネットのマウスピースの咥え方を教えてあげた時のことを。」
凜花の指が止まった。
「咥え方…」
暗闇の中で頷く凜花の気配を彩音は感じ取った。
「そう。右手の中指を私が咥え、左の中指は自分で咥えたでしょう?」
「ええ、そうでしたね。そうすることで、咥えられている感覚を左右の指で同時に比較出来るから、と。」
「それを応用すると?」
「応用…。私の右手の中指を凜花先輩に入れて、左の中指を…自分に入れる?」
「正解。さすがは私の愛弟子ね。理解が早くて助かるわ。」
ジュル。
凜花の指が彩音から抜けた。
「来て。」
凜花は彩音の手を引いてベッドの淵に座った。彩音は空いている方の手で手探りし、その隣に座った。
「自分が気持ちいいと感じる指の動きを、私にもすればいいのよ。」
「…分かりました。」
彩音は自分の左手の中指を自分の入り口に当てがった。そして震える指先をそこにゆっくりと埋めていった。
ジュ、ジュル…。
「う、うう…」
自分でとはいえ、まだその感触に慣れていない彩音は呻き声を漏らした。
「さあ、私の中にも。」
彩音は右手の中指を、右隣にいる凜花に慎重に埋めた。
「いい?左右の指に全く同じ動きをさせるのよ。」
「はい。」
彩音は自分と凜花の両方に埋めた指を、小さく往復させ始めた。
「そんなもんじゃたいして感じないでしょ?もっと奥まで入れて。」
「こう、ですか?」
「そう。で、指を曲げて。もっと。直角ぐらいまで。そう、そんな感じ。」
「あ…ああっ…」
「どう?そのあたりを刺激すると感じるでしょ?」
「は、はい、すごく…うっ…」
「押して、緩めて、押して、緩めて…。リズミカルに圧力を掛けるの。そうそう。もっと、もっと強く!」
「はい。あっ、ああっ…」
「そ、そうよ、それでいい。う…。」
「か、感じるんですか、凜花先輩も。」
「ええ、とても。…ジンジンきてる。」
自慰と愛撫の両方を同時に行う感覚に、彩音は徐々に慣れていった。
「そう、基本はそれでいいわ。後は自分の体の声を聞きながら工夫するの。」
「自分の体の声…」
左手の中指、そしてそこから紡ぎだされてくる快感に神経を集中し、彩音はそれを正確に右手の中指にも反映させていった。
「はあ…、はあ…、はあ…」
暗闇の中に凜花の喘ぎが響き始めた。
「あ…、ああっ…、あはぁ…」
もちろん、彩音も悦びの溜息を漏らしている。
短い残響を残して部屋の中に満ちていく二人の悦びの声…。
不意に、彩音の背後から手が伸びてきて、彼女の左乳首を抓った。
「ああ…凜花先輩、そんな所を…」
しかしその時、凜花の左手は彩音の右太腿に乗せられていたし、右手はベッドに突いていた。
「何?彩音。」
さらに一本、彩音の右の脇の下から腕が伸びてきて、右の乳房を鷲掴みにした。
「何、って。胸を両方同時に弄るなんて…」
「何言ってるの?あなたこそ、どうやって私の胸を?」
「私?手は両方とも塞がってますよ?入れてるから。」
「じゃあ誰が私の胸を?」
そう言いながら、凜花は暗黒の闇の中で声を出さずに笑った。