Misty room/station-2
『逝きたいの?』
僕は、女は、男は、見た。
『貴方の望む場所、misty room』
いつこの電車に乗ってきたのか、この時間に、こんな少女が。
そんな疑問さえ。
『うん、それじゃあ、逝こうか』
途端、電気が消えた。電車は激しく揺れて。
ガガガガガ・・・・!!!!
何かが擦れる轟音と、ふいに訪れる無重力感覚。体は投げ出され思考は投げ出され世界から投げ出され僕は私は俺は・・・!!!
『次は〜霞町。次は〜霞町』
そのアナウンスに、僕は我に返った。
車内を見回す。別段変わったことは無かった。誰もが疲れた目をしている。けれど一様に皆そわそわしている。そう、かく言う自分も何か言いえぬ不安感に襲われる。何か全く知らない空間に放り出された違和感。
プシュー
電車は停止し、ドアが開く。
降りなきゃ、僕は思った。
霞町?そんな駅は知らないけれど、降りなければならないような気がする。
乗客は誘われるように全員、その駅に降り立った。
「ここ、どこ?」
女は言った。
場所も知らないのに、下車するなんてどうかしてる。あまりの怒りに我を忘れてしまったのだろうか。霞町?そんな停車駅は、この路線には無いはずだけれど。
女は考える。
けれど思考は霧に包まれていくばかりだった。
「あれ?おれぁ、間違ったかな?」
アルコールのせいだろうか、男は考える。どうも思考がまとまらない。車内に戻ろうと振り返る。
しかし、電車は忽然と姿を消した。
四人は無言で互いの顔を見る。
サアア。
風が吹いた。
呼んでいる?
男はネクタイを緩め、ホームから出る。
街は静かに。
うっすらと霧が立ち込めている。
――― あぁ
何という綺麗な街だろう。
そこには何も無い。
そこにはだから、全てが在る。
音の無い風景。
「何か、いいなぁ」
男は洩らした。
Misty room ――― 誰かが言った。つまりそれは平穏の街。
ひとが最後に求める安息の地。
男は不必要な腕時計を外し、ふらふらと街の中に歩き出した。
ここでならきっと、笑いながら死ねる。男は思った。自分が積み上げてきたものと交換できない何かが、ここにはあると。