幸せと、明日-2
アイツだって遊びたい年頃なのに、あたしは毎日へとへとでろくに遊びにも行けないし。
たまに一緒に出かけるのは美味しいパン屋さんやケーキ屋さんの研究の為の買い物。
将来だってそうだ。
お店をやったら休みなんてない。定休日を一日くらいは作るけど、ごろごろ出来る訳じゃない。
ああ、本当に遊べないよ。
隆之は、嫌になったりしないんかな。
あたしが見つめていると、隆之はこちらを向いた。
「どうした、アキラちゃん」
隆之はあたしをアキラちゃんと呼ぶ。
「いや、ちょっと将来の事をさ」
あたしがそう云うと隆之はにかっ、と笑った。
「任せろって。アキラちゃんの店の経理は俺がやるから」
「いや、そーゆう事でなしに」
「ああ、じゃあ店名?やっぱ洒落たのが良いけどなあ。俺時代劇好きだから、カタカナは浮かばなくて」
申し訳なさそうに頭を下げる隆之。
「違うよ―――って云うか、アンタの将来はあたしの夫で決まりなの?」
「当たり前じゃん。俺父さん母さんにも云ってるぞ。将来はアキラちゃんとケーキ屋やるって」
「はあ」
そんな事伝えてたんかい。
「俺、アキラちゃんが惣菜パンとかキッシュとか作る為に料理も必死で勉強してるの知ってる」
隆之はふと真剣な顔をした。
「アキラちゃんはすげぇ頑張ってるし、俺アキラちゃんの作るパンとか好きだよ」
「―――ありがと」
「俺アキラちゃんと出掛けたりしなくても大丈夫だし。アキラちゃんが俺の彼女なら、それだけで幸せだしさ」
ちょっとやだ。
泣きそうだよ、アンタ。
どうしてあたしの欲しい言葉を云うの。
「俺頑張って資格取るし。アキラちゃんと、もし生まれたらその子供を楽しくさせる。だから、その分アキラちゃんはお客さんを幸せにしてやんなよ」
にこにこして、隆之はあたしの頭を撫でる。
気持ち良い。あったかい、隆之のてのひら。
「ねえ隆之、幸せってどういう事か解る?」
隆之は何も云わずに、あたしの言葉を待ってる。
「明日も、今日みたいな日なら良いなって思える事」
明日なんて来なければ良い。
目が覚めないと良い。
目が覚めたら、全部夢だと良い―――。
ねえ隆之。
人っていつそうなるか解らないんだよ。
あたし、明日も次の日も、アンタの横に居たいな。
これは叶うのかな。
あたしはそんな辛い人の心を、少しは救えるようになるのかな―――。
「アキラ、泣くなよ」
優しい声で囁いた隆之に、あたしはぎゅっと抱き締められた。