美雪-5
「何が嘘なんだ」
「この間見たもん」
「何を?」
「制服の上にピンクのセーター着た女の子と北口を歩いていたじゃない」
「ピンクのセーター?」
「髪の長い背の高い女の子」
「俺はチビは嫌いだから付き合ってるのはみんな背が高いんだ」
「だから髪の長い、胸の大きな子」
「俺はロングヘアーが好きで巨乳はもっと好きなんだ。だから付き合ってるのはみんなそんな感じなんだ」
「だから、先週の日曜よ」
「先週の日曜?」
「中野の北口歩いてたでしょ?」
「ん。忘れた」
「ピンクのセーターで異常にスカートが短い女の子と一緒に歩いてたじゃない」
「異常に短いって何だ」
「だって、あれじゃ座ったら見えちゃう」
「膝か?」
「膝なら私だって見える。そうじゃなくて下着が見えちゃう」
「ふん」
「何思い出し笑いなんかしてんのよ。嫌らしい」
「笑ってなんかいない」
「思い出したでしょ? ピンクのセーターの子」
「まあ、そういうのもいるな」
「手をつなぐどころか抱き合って歩いていたじゃない」
「そんなことはないだろ」
「そんなことあるよ。見たもん」
「それじゃ何か気分でも悪くなって歩けなかったんじゃないか?」
「誰が?」
「だから彼女が。それで抱きかかえてやったんだろう」
「嘘。見つめ合って涎垂らしながら歩いていたもん」
「そんなことするか」
「涎は嘘だけど、ベタベタしながら歩いていたのは確かだよ」
「あれはベタベタしていたんじゃない」
「じゃ何してたの?」
「人が多くてぶつかりそうだから、くっついて歩いてただけだ」
「そうかなあ」
「そうだ」
「あの子誰?」
「お前の知らない女」
「だから、誰?」
「だから答えても知らないんだよ、お前は」
「知ってるかも知れないじゃない。何年生? 何組?」
「だから別の学校の女だ」
「そうか」
「お前、今のこと母さんには内緒だぞ」
「どうして?」
「どうしても」
「変な付き合いだから?」
「変な付き合いじゃない。心配させたくないだけだ」
「だから、心配するような付き合いなの?」
「親っていうのは、やたらに心配するんだ」
「私もちょっと心配したよ」
「何を?」
「ひょっとしたら大人の付き合いをしてるのかなって」
「大人の付き合いって何だ?」
「だから、嫌らしい付き合い」
「嫌らしい? 嫌らしいこと考えるな」
「だって、そんな雰囲気だったんだもん」
「お前にそんなことが分かるか」
「分かるよ、それくらい」
「子供の癖に」
「と言うことは、やっぱり大人の付き合いなんだ」
「しつこいぞ、お前は。親の回し者か」
「別にそうじゃないけど、まだ高校生なんだから」
「だから何だ」
「だから、あんまり女の子といちゃいちゃしない方がいいと思って」
「別にいちゃいちゃなんかしてない。第一、お前男といちゃいちゃしたくてボーイフレンド紹介してくれって言ったんだろ」
「私は健全に付き合うの」
「健全な付き合いってどんなんだ」
「だから、それが分からないからデートってどんなことするのか聞いたの」
「健全なデートか?」
「うん」