美雪-4
「あのね。生理なんてとっくのとうに来てるよ。小学校の時に来てる」
「何?」
「高校生になってまだ生理が来てないと思ってたの?」
「ん?」
「今時はみんな小学校で経験するよ」
「そうか?」
「厭だ。そんなことも知らなかったの?」
「いや、それくらい知ってる」
「嘘。知らなかったじゃない」
「知ってたけど、お前の場合は発育不良だからまだだと思ったんだ」
「ふーん」
「兄貴として心配しただけだ」
「それで誤魔化せたと思ってる?」
「何が?」
「お兄ちゃんの無知が」
「何が無知だ」
「まあいいや」
「何がまあいいんだ」
「だから、もう生理があるんだから友達紹介してくれるんでしょ?」
「友達なんて自分で作るもんだ。人に頼るな」
「お兄ちゃんは?」
「何が?」
「ガールフレンドどうやって作るの?」
「自然に出来るんだ」
「でも余所の学校の女の子もいるんでしょ?」
「ああ、沢山いる」
「余所の学校の女の子となんてどうやって友達になるの?」
「だから自然にだ」
「ナンパするの?」
「ナンパ? ナンパされるんだ」
「ナンパされる? どうやって?」
「そんなの向こうがするんだから知らない」
「向こうがするって、どうするの? お友達になって下さいっていきなり話しかけてくるの?」
「まあそうだ」
「電車の中で?」
「場所なんかどうでもいいだろ」
「でも、まさか道歩いていていきなりってことは無いでしょ?」
「俺くらいのいい男になると何処歩いていてもそんなのばっかりだ」
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃ、今は何で誰も話しかけて来ないのよ。家を出てからもうだいぶ経ったのに」
「だから、それはお前が一緒にいるからだ。虫除け樟脳みたいな奴だな、お前って」
「馬鹿にして」
「という訳だから腕なんかつかむなって言ってるんだ」
「そしたらおぶさってやろう」
「馬鹿」
「何でお兄ちゃんってもてるの?」
「顔見りゃ分かるだろ」
「私とおんなじ顔じゃない」
「馬鹿言うな」
「だって似てるよ」
「何処が。全然似てない」
「形なんて同じだよ」
「形が同じでも造作が違う。鼻だって俺の方が高いだろ」
「大して変わんないと思う」
「何? お前は鏡を持ってないのか」
「眉だって同じだし」
「こういう眉は男の眉なんだ。お前はつまり男顔だな」
「まあ、失礼な。お兄ちゃんの眉が女の眉なの」
「それじゃ、何で俺にはガールフレンドがいて、お前にはボーイフレンドがいないんだ」
「だから、今は男らしい顔がもてる時代ではなくなったのよ」
「どっちにしろ俺はもてるし、お前はもてない。事実は冷酷だな」
「お兄ちゃん、女の子とデートする時も手はつながないの?」
「そんなこと、お前の知ったことじゃない」
「だから聞いてるんじゃない」
「お前の知るべきことじゃない」
「教えてくれたっていいじゃない」
「手なんかつながない」
「どうして?」
「俺は硬派なんだ」
「やっぱり嘘ついてる」