美雪-25
「もうオナラしなくても大丈夫。納得いったから」
「そしたら今のこと母さんには黙っていろよ」
「それじゃハイ」
「何だその手は。手相を見てくれなんて言ってないぞ」
「口止め料」
「馬鹿。俺から金を取ろうっていうのか」
「冗談」
「兄妹ってのは親子よりも深いつながりの関係なんだ。親子は一世、兄弟は二世、夫婦は三世の仲というんだ」
「何それ？」
「世の中には、生まれる前の過去の世の中、現在の世の中、死んでから後の未来の世の中という三種類がある。親子は今のこの世の中だけの関係だけど、兄妹はそれより深い関係なんだという話だ」
「へー。それって本当？」
「本当だ」
「お兄ちゃんって教養があるんだね」
「俺は教養の塊だ。教養が服を着て歩いてる。それが俺だ」
「兄妹は親子より深い関係なの？」
「そうだ。だから二人だけの秘密をたとえ親にでもバラしたりするんじゃないぞ。親子より深い関係を壊すなよ」
「うん。分かった」
「そしたらいつかオルゴール買ってやるから」
「本当かなあ」
「まあ、金でも拾ったらな」
「馬鹿」
「まだ何か話があるのか？」
「別に無いけど」
「無かったら出ていってくれ。俺は勉強してんだから」
「私が此処にいると邪魔？」
「あのなあ。お前だって俺が少しでもいい大学に入れば嬉しいだろ」
「それは嬉しい」
「だったら協力してくれよ」
「うん分かった」
「何いつまでもグスグスしてんだよ。まだ何か言いたいことがあるのか？」
「お兄ちゃんが憎まれ口をきくのを待ってるの」
「何で？」
「そうしたら又この前みたいに首を締めてやろうと思って」
「憎まれ口なんかきかないから早く出て行け」
「憎まれ口をきいて欲しいから待ってるのに」
「何だ？」
「本当はお兄ちゃんに抱きつきたいの」
「呆れた。それじゃもう好きにしてくれ」
美雪は嬉しそうに哲治に近づいてくると後ろ向きになっている哲治に抱きついた。それから照れ隠しのように首を絞め始めた。しかしそれは首を絞めているというよりも、一層強く抱きついただけのようにしか見えなかった。