ポルノグラフィティより『まほろば○△』-2
頭で悶々と考えながら窓の外に視界をずらすと、ネオンが昼間の様に辺りを明るく染めている。渋谷は眠らない。いや、東京は眠る事を知らない。
そんな街を見下ろす位置に在るこの部屋は、自分を追い詰めたり、罪悪感に支配されない空間なのに。
なんで君は気持ちの昂りと、僕の射精感を競わそうとするんだ?
自分で自分を必要以上に責める、そう言う趣味なのか?
これが本当の君なのか?
ダメだ。君の事を好きな訳じゃないのに。
君なんて、どうでもいい奴の一人な筈なのに。
アイツと一緒にいる時と全然違うから、僕は君にとって何なのか…そんな馬鹿げた事を考えてしまう。
アイツとも僕の知らない所では、こんな風に身体を交えているのかも知れない、なんて馬鹿げた想像を掻き立ててしまう。
僕は何で君を抱いているんだ?
君は何で僕に抱かれているんだ?
小休止に煙草に火をつける。君はダルそうにベッドに突っ伏している。
「煙草、一本頂戴」
禁煙席をアイツに選ばせていたのが嘘だったのか。煙にさえ嫌な顔をしていた君。この変わり様に別の人間とセックスしたと考えてもいいくらいだ。
「意外…でしょ?」
僕からもらったメンソール味のソレを美味しそうに口に含む。紫煙はたちまち二人を包み、ハッカの匂いが辺りを満たす。
「私、ダメなんだ。アイツといると…偽りの自分しか、見せられない」
深く息を吐き、灰を透明な硝子細工の皿に落とす。
いつものお嬢さんの様な受け身はアイツの前だけだったのか、そう合点が付く。
じゃあ、何で…
「…俺には偽らないんだ?」
ぽっかりと空いた疑問の穴。
僕は君にとって何時だって第三者だ。彼氏の友達って言う位置にいるだろ。
本当だったら偽らなければならない内の一人の筈だ。
「…君だったら解ってくれるって、直感。アイツは、なんか愛想が尽いちゃった」
ごろりと寝転がって八重歯を見せた。二人とも煙草は当に揉み消して、手持ち無沙汰を隠しきれない。
「ね、ほら…こんなに身体の相性はぴったり」
子猫の様におでこを僕の胸に擦りつける。むくむくと欲望の火種が燻る。
したり顔で僕を口に含み、また一枚…めくる度に、君の中の妖しい君を見つけ出す。
「あぁっ、ね、…もっと」
わざと駆り立てる様な仕草、僕を試しているのか。僕もアイツの二の舞いなのか。
なんだろう胃の辺りがジリジリして…
僕の中の醜い感情。
僕とアイツを天秤に掛けながら君は腰を振り続けているんだろ?
「そうやって…自分を偽って、無理に演じたりするから…」
「え?」
僕を絞り出そうと貪欲な君は、今僕が君に酷い言葉を突き立て様としてるなんて、ちっとも気付きはしない。
『「君は強い女」だからって、アイツに愛想を尽かされたんだろ?』
言葉に出来ない。所詮、第三者の僕だ。
情けない?
そうだな、そうかも知れないな。
この果てしない、背徳的なタブーの海へと君と一緒に堕ちていく。
僕も知らない、アイツも知らない、そんな妖艶な君。
胎内へと、僕の身体が引きずり込まれる。
今、君と交わっているのは果たして僕なのか。アイツの幻想なのか。
幼い声をあげながら、喉を震わせる君だけが知っている。