第二話-6
「お父さん!何時まで入ってるの。いい加減にしないと、逆上せちゃうわよ。」
史乃の声に、寿明は苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「判ったよ!今、上がるよ。」
湯船から上がると、火照った身体を冷まそうと、下着姿のまま出て行った。
「なんだ?未だ、いたのか。」
キッチンの冷蔵庫から缶ビールを取り出し、リビングに向かうと、史乃が待っていた。
「なに言ってるのよ!ストレッチをやろうと待ってたんじゃない。」
「えっ?もう大分良くなったから、いらないんじゃないか。」
「だめよ。そう言って朝も逃げたでしょう。」
どうやら、朝のことを未だ、根に持っているようである。寿明は仕方なく、リビングの床に足を広げて二度目のストレッチを受ける事にした。
「きっちりやっておけば、明日はもっと楽になってるわよ。」
「ちょっと痛いが……。朝の時より、ずいぶんと楽だな。」
「じゃあ、もう少し負荷を掛けるわよ。」
朝と同様に、史乃は身体をぴったりと密着させ、身体を倒し込んでゆく。インナーシャツとパンツだけの寿明の身体に、朝以上の感触が伝わって来た。
しかし、それは史乃も同じで、父親のごつごつとした背中は勿論、体毛に覆われた太腿、そして意外と逞しい二の腕に肌と肌が直接、触れていると、自分の鼓動が速くなっている事に気づいた。
「──ゆっくり息を吐いて。そうそう。」
寿明は言われるまま息を吐き、更に、身体を倒し込もうとした。
その時、思いとは裏腹に、寿明は史乃の身体の感触を確めるべく全神経は研ぎ澄まし、首許から頬へと垂れる髪が放つ香りを鼻腔一杯に嗅ぎ、そして耳許で聞こえる息遣いに想像を膨らませていた。
(まずいな……。)
男の性とはいえ、悲しいものだ。
あれ程、娘の身体に欲情を覚える自分を恥ずかしい人間だと貶めた筈が、言葉では判っているのに、裸体を意識せずにはいられない。
無関係な出来事に集中して勃起を抑えようと試みても、効果は全くの逆で、意識すればする程、陰茎は益々、熱り勃っていった。
そんな父親の異変に、史乃は勘付いた。
「どうかしたの?お父さん。急に口隠っちゃって。」
「う、うん……。ちょっとな。」
開脚ストレッチで強い荷重を加えると、足の付け根に痺れるような痛みが走る。ひどい場合は内出血を伴う場合もあるし、腰椎を痛めて腰痛症になる場合もある。
史乃は寿明の顔色が優れないことに気付き、慌てて身体を引き離し、
「お父さん、大丈夫!?ちょっと見せて。」
寿明の股関辺りを覗き込んだ。
「な、何をしてるんだ!何でもないから、すぐに収まるから。」
仰天した寿明は、しどろもどろになりながら、史乃を引き剥がそうとする。が、勢い余って押してしまい、引っ掛かった史乃の手がパンツを引き降ろしてしまった。
面前で、ぶるんと揺れた熱り勃つ陰茎に史乃は、信じられないとばかりに口をパクパクさせ、声さえ出ない。
「そ……。それっ……。」
「ち、違うんだ!これは、ちょっとした事故なんだ。」
寿明も又、自らの羞恥を娘の前で晒したことに酷く狼狽えるばかり。言い訳さえ儘ならず、慌ててパンツををずり上げると、脱兎の如くリビングから逃げてしまった。