記憶とstrawberry-6
「ねえ、中村オジサン」
「中村オジサン」呼び名を繰り返して、男は苦笑する。
「残念だけど、アタシは今の中村君とは付き合ったり出来ないからね」
「分かってますよ」男は微笑み、頷く。
「でも、友達になら、なってあげる」
「それは光栄です」男は車を止め、シートベルトをはずす。「さあ、約束の苺狩りですよ」
「よし、いっちょ約束果たしますか」アタシは車から飛び下りる。二十年越しの約束を、現実のものとする為に。約束は守られるべきなんだ、と訳なくアタシはそう思った。
「ねえ、他には約束してた?」アタシは訊く。
「二十年後に再会したら、チュ−しようって言ってました」
「嘘つくなよ、オッサン」突っ込み、アタシは男に軽く蹴りをいれる。
そして、逃げるように駆け出したアタシの後ろを、男がゆったりとした足取りで着いて来る。
男はきっと、元気なアタシの姿を見ている。見なくても分かる。彼が、微笑んでいること。
多分、アタシの忘れてしまった、あの頃と同じ、優しい微笑み方で。