みどり-24
「本場だから?」
「そう。こっちだって美味い店と不味い店があるけど、美味い店だと東京なんかにある熊本ラーメンとは全然別の物みたいに違うから」
「そうか。それじゃ1回くらい食べてみるか」
「うん。高菜漬けはお母さんが出してくれるよ」
「高菜漬けっていうのは知らない」
「おいしいよ」
「ほう」
みどりの母はみどりが小さい頃に離婚したのだそうで、綺麗なマンションに独り暮らししていた。相続した実家の土地が九州高速道路の予定地に当たって買収されたので金が入ったのだというが、東京なら億ションだろうと思われるような豪華なマンションだった。何の仕事をしているのか知らないが陽一達の滞在中働いている様子は無かったし、若くて綺麗な人だったから誰か金持ちの愛人のようなことをしているのではないかと思った。2日間泊まっただけだったが、陽一は大変な歓迎を受け、既に義理の息子としての扱いを受けた。
「母さんって随分若い人なんだな。驚いたよ」
「もう40だよ」
「20代はちょっと苦しいけど30そこそこって言っても立派に通るだろう」
「気持ちが若いからじゃないかしら」
「みどりよりよっぽど派手なんじゃないか」
「私が一緒に住んでた頃は水商売やってたから」
「今は何やってんだ?」
「良く分かんない」
「へー。まあ金はありそうな感じだったな」
「うん。そうみたい、ほら」
「何だ? どうしたんだ、それ」
「お母さんに貰ったの。帰る時これで2人の新生活を始めなさいって」
「ほう。それは予想外の幸運だったな」
「これは使わないで取っておくの」
「何で?」
「だって子供が出来たら私は仕事辞めなくちゃいけないんだから」
「うーん。そうだな」
「ね? だから結婚式しないと言っても無駄使い出来ないのよ」
「ちょっとくらいはいいんじゃないのか」
「何に使いたいの?」
「カメラ買いたいんだ」
「カメラか。いいね」
「ああ。2人で撮った写真って殆ど無いだろ?」
「そうだったわね」
「お前のオムツ取り替える所とか、いろいろ写真撮っておかないといけないだろ」
「そんな所は撮らなくていいの」
「お漏らしした所とか」
「それも要らない」
「撮ったっていいだろ」
「そういうことは2人で楽しむだけでいいの。写真に撮ると人に見せたくなるから駄目」
「お前は人に見せたくなるの?」
「違う。陽ちゃんが。あの雑誌に写真送ろうと思ってるんでしょ」
「へへ、ばれたか」
「そんなの分かってるよ」
「それじゃ雑誌には送らないから写真だけ撮ろう」
「何でもやりたいことやっていいけど、写真は駄目」
「どうして?」
「厭らしいことやってる自分の姿なんて見たくないから」
「どうして?」
「厭らしいことなんて後で冷静な目で見たりするのは厭だもん」
「へー。それじゃやるだけならいいんだな」
「やるだけならいいよ」
「それじゃ浣腸してオムツして外でうんこ出させてやる」
「陽ちゃんは私にそんなことさせたいの?」
「させたいの」
「私達結婚するんだよ」
「結婚したら厭らしいことやっちゃいけないのか?」
「自分の奥さんにそんなことさせたいの?」
「させたいよ」
「あーあ。そこまで言うんならいいよ」
「やってもいいのか?」
「厭だって言ってもやるんでしょ」
「やるよ」
「それじゃ私の答えなんか要らないじゃない」
「そんなことは無い。どうしても厭だっていうんなら待ってやる」
「待ってる間ずっと不機嫌な顔してるじゃない」
「それはしょうがないだろ。やりたいこと出来なくてニコニコ出来る訳無いだろ」