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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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第五話-5

 夕子を百姓家の縁台に残して二十分程が経過した頃、
 「──何とか、買う事が出来たよ。」
 一抱えは有りそうな※8糧袋を両手に、伝一郎が戻って来た。
 「申し訳ありません。本来なら、※9下女で有る私が行くべき事なのに。」
 夕子は、悄気(しょげ)返って頭を垂れるが、伝一郎は気にした素振りも無い。
 「何の。気に病む必要なんて無いさ。君は具合が悪いんだから。其れに、此れを女子一人の力で運ぶのは、些か、無茶な話だろう。」
 伝一郎はそう云って、糧袋を大事そうに、夕子の隣に降ろして行く。縁台の板を通じて“ゴトリ”と云う重い音が、夕子の耳にも伝わった。
 「な、何です?此れは。」
 「甕(かめ)だよ。」
 伝一郎に依れば、ミルク・ホールの女主(あるじ)に、アイスクリンを土産に有るだけ欲しいと伝えた所、甕ごと売ってくれたばかりか、中身が溶け出すのを案じ、糧袋を二重にして包むと云う、奉仕振りだったそうだ。
 「そんなに……。高価な糧袋まで。江戸切子の器もそうですが、あの方の心持ちが伝わって来る様ですわ。」
 「そうだな。ああ見えて、商売人としての矜持を知っている様に思う。」
 大枚※10弐拾圓(20円)を叩(はた)いたとは云え、商売道具を手離す事さえ厭(いと)わず、客の身に為って奉仕するのは、生半(まななか)に出来る事では無い。
 「夕子。すまないが、手提げ袋に有る塵紙を二枚程くれないか?」
 「は、はい。何を為さるんです?」
 不可解と云う形相の夕子を他所に、伝一郎はポケットから壱圓(1円)札を二枚取り出し、塵紙に包み込んだ。
 「此処の家人への御礼だよ。裸のまゝ、金を渡すのは失礼だからね。」
 伝一郎は、そう云うと家人に御礼を渡し、百姓家を後にした。



 空が、山吹色から※11真朱(まそお)に変わろうとする頃、二人は漸く、街の目抜通りへと戻って来た。
 「大丈夫かい?もう少しで待ち合わせ場所だ。」
 「は、はい。何とか。」
 未だ、足下の覚束無い夕子と、※12三貫目より遥かに重いアイスクリンの甕を抱えた伝一郎では、夕暮れの涼風そよぐ中を漫ろ歩く好一対とは行かぬ様で、互いが汗だくに為り乍ら、緩々と目的地を目指して歩いていた。

 丁度、六時を報せる鐘が鳴っていた、その時──。前方から囂々(ごうごう)足る爆音と砂塵を巻き上げ、激しく警笛を鳴らし乍ら、香山の運転する自動車が突進して来るではないか。
 往来を行く者共を蹴散らすが如く此方に向かって来る様に、二人は憤怒した。
 「なんて酷い事を!」
 「全くだ。此れでは見す々、新聞記者の餌食ではないか!」
 伝一郎は、香山を叱り付けてやろうと思った。
 抑々(そもそも)が、気が狂(ふ)れた義母の貴子を入院させる為の囮役だった筈。幾ら、此方に注意を引く必要が有るとは云え、こんな騒ぎは、逆に田沢の名を汚す行為で有る。
 処が、自動車が二人の傍に停まるや否や、伝一郎を差し置いて香山の方が、先に怒号を挙げたのだ。
 「何を為さってたのです!鉱山(やま)火事の警笛が、あれ程鳴っていたのに!」
 香山の迫力に一瞬、気圧されそうに為る伝一郎だが、直ぐに気を持ち直した。
 「火事って。暫くしたら消えたんじゃないのか?其れに、此方は貴子の件で出掛てたんだぞ!何だ!その云い草は。」
 「其の話は後程。火事の件で、親方様が邸で御待ちです。さあ、早く乗って下さい!」
 その姿は、今朝の小心者の其とは違う。二人は云われるまゝ自動車に乗り込んだ。が、伝一郎の中で涌き上がる憤怒は消えず、燻ったまゝで有る。
 自動車が元来た路を進もうと、再び囂々足る音を挙げた瞬間、伝一郎の怒りは心頭に発し、気付けば裏拳が香山の顔面を潰していた。
 短く、悲鳴が挙がった。
 「いい加減にしろ!此れ以上、田沢の名を汚す様な真似は許さんぞ!」
 顔をしかめて涙を流す香山。鼻から滴りおちる鮮血を左手のハンカチで押さえている。此れでは、先刻迄の迷惑な運転は出来ない。
 自動車は、往来を緩々と走り出した。
 一連の騒ぎの一部始終を見ていた街人は、走り去ろうとする自動車を呆気に取られた様に、唯、黙って眺めるばかりだった。
 斯くして、伝一郎と夕子の“街の散策”は、程無く顛末を迎えたので有る。





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