文香-26
「竜ちゃんは偉いこと考えてるのね」
「今のは親父の口真似です」
「そう。お父さんは偉い人ね」
「うーん。まあそうかもしれません」
「文香と結婚するって聞いたけど」
「いつか、と言うよりもうじきしたいと思ってます」
「文香のことをそれほど気に入ってくれたの?」
「気に入ってなければ結婚なんかしません」
「それはそうね」
「母さんまさか反対してんじゃないよね」
「してません。何を言えば分からないくらい喜んでるの」
「どうして喜んでんの?」
「文香がこんなまともな人と結婚するというから」
「俺って別に取り柄はないけどまともです」
「ええ初めて見たときから分かりました」
「裸であそこの毛を剃ってたのに?」
「ああ、あれには驚いたけど」
「この人変態じゃないけど変態っぽいんだ。ねっ?」
「あのなあ、お前」
「そんなことはどうでもいいの。いまどき男と女の間に変態も普通もないことくらい私でも知ってます」
「分かったか」
「何やっても変態じゃないってこと?」
「馬鹿、お前の母さんがウザイ人じゃないってことを言ったんだ」
「まあ」
「そうだね。この頃あんまりウザいと思ったことない」
「本当に竜君のおかげね。文香がこんなに素直になったのは」
「さあ、前から素直な女だったと思いますよ。素直な子でなきゃ、体と金だけ求めて群がってくる男たちを相手になんかできなかったと思いますよ。馬鹿じゃないから男の本心が分からないはずないんだし」
「竜君はそう思っているの?」
「ええ、そう思ってます」
「偉いのね」
「偉いというほどでもありませんよ」
「でも沢山の男と関係を持ったのに簡単に許せてしまうなんて凄いわ。時代が違うのかしら」
「俺って、セックスなんかあんまり大したことだと思わないから。仲が良ければ二人でディスコ行ったりゲームセンター行ったり、いろいろ楽しいことやるでしょ。セックスもそれと一緒だと思ってるんです」
「そうすると文香と結婚しても誰か女の子と仲が良くなるとセックスするの?」
「それはありません」
「どうして?」
「俺ってほら、こいつの服装見ればわかるでしょ。女に対して要求が強いんです。絶対的に俺の言うことに従わない女は好きになれないんです」
「文香と結婚した後、だれか竜君のことを好きになった女の子が『竜君の言うことならなんでも言うこと聞くよ』といったらどうするの?」
「それは全然大丈夫です」
「大丈夫って、どういう意味?」
「誰だって可愛い女でなければ相手にしませんよね」
「だから可愛い女の子からそう言われたらどうするのか聞いてるの」
「俺は自分の気持ちがのめり込んだ女以外は可愛いと思わないから。誰かに好きだといわれても文香にのめり込んでる気持ちが影響を受けるというのは考えられない」
「今までに文香以外にも好きになった女の子はいるでしょ?」
「それはいます」
「その子とはどうして分かれることになったの?」
「それはこいつみたいに俺の言うこと素直に聞いてくれなかったから。俺はこれを着ろ、あれを着ろと言うのは、俺の愛情表現なんです。好きだからこれを着てほしい。好きだから縛ってセックスしたい。好きだから、好きなんだから、俺はこうしたいああしたいと要求するんです。だから要求を拒否されると俺の愛情を拒否された気になるんです」
「私はなんでも竜ちゃんの言うとおりにするよ」
「そうだね。だから俺はお前のことが好きなんだ」
「いいわねえ、そういう男って。私もそういう男と結婚したかった」
「あいつはそういう男じゃなかんだ」
「お前、自分の父さんをあいつなんて言ってはいけない」
「今でも金をくれるから?」
「そうじゃない。自分が軽蔑してる男の子供だと思ったら自分が惨めになるじゃないか」
「そうか。そんなこと考えたことも無かった」