文香-25
「ひゃー、これは凄い」
「何が?」
「何か、パーティでもやるみたいな感じだ」
「おかずが多いから?」
「ああ、俺んちなんて、おかずは1つって決ってたから、こんなにたくさん並んでると何食べていいか分かんない」
「全部食べて頂戴」
「ありがとう。でも全部は食べられない」
「あのね竜ちゃん、これは3人で食べるんだよ」
「馬鹿。お前にそんなこと言われなくても分かってる」
「うちは犬がいないから、余ったら捨てるしかないの。勿体無いからフーチャンも頑張って全部食べて頂戴」
「冷蔵庫ないんですか?」
「え?」
「ない訳ないですよね、こいつと、いえ、文香さんと付き合ってると、こっちまで馬鹿になっちゃって」
「フミカさん?」
「お前文香って言うんじゃないの?」
「そうだけど」
「変な顔してるから間違えたかと思ったじゃないか」
「ああ、フミカさんなんて言われたことないから」
「お前の母さんの前で、お前って言うわけに行かないだろ、今言っちゃたけど」
「いいのよ、遠慮しないで」
「そうですか、別に馬鹿にしてお前って言ってるわけじゃないんです」
「分かってるわ」
「竜ちゃんは言葉は乱暴だけど、根は優しいの」
「分かってるわ」
「ここの毛剃ったり、縛ったりするけど、竜ちゃんは変態でもないの」
「まあ」
「お前なあ、そういうことを親の前で言うもんじゃないだろ。俺は恥ずかしくて穴があったら入りたいよ」
「そうお?」
「いいのよ、愛し合ってるんなら何をやっても」
「ほら、母さんだって言ってる」
「いいからお前は黙って食え。俺が少しずつ常識を教えてやるから、もういいって言うまで食事のときは黙ってるんだ」
「二人のときも?」
「二人で食べるときは何言ってもいい」
「フーちゃんに少しずつ常識教えてくれるのは嬉しいけど、私に遠慮はしないでいいのよ」
「はあ」
「母さんが教えてくれなかったから、竜ちゃんが教えてくれるんだ」
「お前が親の言うこと聞かなかっただけだろ」
「どうして知ってんの?」
「お前が自分で言ったじゃないか。母さんなんかウザイから口を利かないって」
「なんか、この頃ウザクない」
「初めからウザクなんかないんだ」
「どうしてそんなこと知ってるの?」
「それくらい馬鹿でも分かる」
「そう?」
「ウザかったら、俺はここにいない」
「そうか。母さん、ウザくしたら、私シバクよ」
「まあ」
「おまえな、俺の家だったらお前は箸で殴られてんぞ」
「何で?」
「親にああいう口を利くからだ」
「へえ?」
「そう言えば、竜君の親御さんは何をやってるの?」
「トラックドライバーです。俺と同じで頭よくないから」
「まあ」
「でも腕はいいんです、事故起こしたことは1度もないんです」
「それは偉いわね」
「まあ、偉いってほどでもないけど」
「竜ちゃんって、頭悪いの?」
「お前よりはいい」
「うん、私は馬鹿だから」
「そうだな、お前より良くても自慢になんない。あっ、すいません」
「いいのよ、本当のことだから」
「竜ちゃん、馬鹿でも利口でもそんなことどうでもいいよ」
「そうだな。お前も説教するようになったんだな」
「ごめん」
「別に謝らないでいい。お互いに悪いところは指摘して直す。だから一緒に暮らす意味があるんだ」