文香-24
「よし、これがいい。これ着ろ」
「これ腕もお腹も出る服だよ」
「だから?」
「ロープの跡が見えちゃう」
「だから?」
「恥ずかしい」
「ふん。いっちょうまえに恥ずかしいのか」
「だって」
「それじゃ股がガビガビになった忍者服着るか?」
「竜ちゃんの服貸して」
「俺の?」
「ジーパンとトレーナーでいいから」
「トレーナーはいいけど、ジーパンは無理だろ。入らないだろ」
「入るよ。太って見えたってそんなに大きく無いんだから」
「お前俺のウェスト・サイズ知ってんの? 66なんだぜ」
「私63」
「何ー? 本当かよ」
「うん。前は68だったけど今は63になった」
「本当か? 随分細くなったとは思ったけど5センチも小さくなったのかよ」
「うん、頑張ったから」
「そんなに急に痩せるのは良く無いぞ。何事も急は良くない。結婚も」
「え? うちに引っ越して結婚すんじゃ無かったの?」
「だから当面は引っ越しっていうか、お前んちで暫く一緒に暮らすだけ。それで上手く行くようなら本格的に引っ越ししてもいいし、結婚してもいい」
「本当? それじゃ私頑張るよ」
「テスト期間だけ頑張ったって駄目なんだぜ。結婚したって離婚ってもんがあるんだから」
「それじゃ死ぬまで頑張るから」
「まあ、頑張ってばかりいると疲れちゃうから程々適当でいいけどな。俺だって偉そうなこと言える訳じゃないし」
「ううん。私竜ちゃんの為に頑張るのは楽しいから大丈夫」
「そうか。それじゃ俺のジーパン出してやるから行こうか」
「持ってきた服どうする?」
「俺の服をいくつか持ってかなきゃいけないから荷物になる。置いてけ」
「此処に?」
「ああ、当面はあっち行ったりこっち来たりして暮らせばいい。その方が家が2つあって楽しいだろ」
「そうだね。物は考えようだね」
「そうそう。まああんまり気張らないでのんびり行こう」
「それじゃ出発だね」
「出発って言う程大袈裟なもんじゃないだろ」
「ううん。2人の新しい人生に向けて出発」
「ああ、なるほど。良し、それじゃ出発だ」
「まあ、あの子がそんなこと言ったの?」
「それでやっぱり私のために我慢してんの?」
「まあ、それだけじゃないけど、現実にお金がなければあなたを育てることもできないわ」
「まあそうだね」
「あの子の両親にはもう会ったの?」
「ううん、九州にいるから」
「そう。それで何やってる人?」
「知らない、聞いたことないから」
「言いたくないのかしら」
「そうじゃなくて本当に聞いたことない」
「そうじゃなくて、あの子が」
「竜ちゃんが? 竜ちゃんに言いたくないことなんて何もないと思う」
「そう?」
「聞けば何でも言うし、『俺には秘密なんて何もない』っていつも言ってるから」
「そう?」
「竜ちゃんの親の仕事が知りたいの?」
「そうね…、どうでもいいけど知りたいかといえば知りたいわね」
「それじゃ、後で聞いたら?」
「そうね」