突然の出来事-1
常連のサラリーマンが私の胸をチラチラ眺めていることに気付いていた。その常連は、いつも10時過ぎに来店し、黙々と携帯を操作して何も言わずに帰る客だった。それなのに今日の態度は明らかに不審だった。
「あの、珈琲をお代わり貰いたいんですけど」
「あら、珍しいんですね。ホットでいいのかしら?」
「はい」
私と身長の変わらないその客は、目線を合わせる事なく下を向いたままカウンターで頷いていた。可愛い人。照れ屋さんなのかしら。そんな程度しか考えていなかった。珈琲サイフォンからお代わりを注いでいる時、その客の視線がまだ胸ばかりを見つめている事に気付いていた。やだ、凄い見てるわ。私の視界に少し窮屈になった制服の胸が揺れていた。真剣な視線に戸惑いないながらも、まぁいいわ。とお客様だからと許してあげていた。
「忙しいんですか?」
「ええ、少し」
「はい、お代わり出来ましたよ」
満面の笑顔であしらおうとしていた。この人は疲れている。だから、いやらしい視線で逃避したくなったに違いない。そんな軽い気持ちで微笑んであげていた。
「優しいんですね。ありがとうございます」
そう告げたその人は、カウンターの目の前の席に移動して普段通り携帯を操作し始めていた。変な人。グラスを磨きなら不自然なその人をやり過ごしていた。
「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
「そうよ、暑いわね。ねぇ、クーラー効いてる席がいいわ」
「かしこまりました。こちらです。お一人様入りましたー」
新しいお客様を案内してカウンターに戻った時だった。嘘でしょ。私の目の前に座ったその人は、信じられない行為を密かに始めてしまっていた。私は見てはいけない男を悟った瞬間だった。ちょっと、何やってるの。でも言葉は出てこなかった。咄嗟の出来事に私は恐怖に慄きどうする事も出来なかった。
メニューを眺めているその人は、横目で私の胸を眺めながらズボンを太腿まで降ろして硬く反り返った勃起をしごき始めていた。
「ちょっと、、」
小さな声しか出せなかった。私の声に気付いた男は、変態行為を続けながら私を真顔で見つめていた。ねぇ、ちょっと。声は出せなかった。攣りあがった男の太腿はびじっと伸ばされ、勃起した亀頭から生々しい精液が飛び跳ねていた。
「ちょっと、あなた」
射精感に浸る男は睨め回すように私の胸を見つめ、腰をビクッと震わせ精液を絞り出しながら呟いていた。
「次はお世話になりますよ」
濡れた勃起をスウェットに戻したその客は、テーブルにお金を置いて逃げ出すように帰ってしまっていた。
「ねぇ、どうしたの?」
「あれよ」
不穏な雰囲気を察した歳下の主婦が、カウンターの私に向けて話かけていた。私は黙って視線を促していた。
「何あれ?」
ビロード刺繍のソファーに白い液体が飛び散って糸を引いていた。
「ウソ、嘘でしょ」
まだ若い主婦は信じられない表情で凍りついていた。他のお客が騒ぎ始める前に片付けをしないと大変な事になる。一刻も早く掃除をしなければいけないことは分かっていた。
「ねぇ、厨房からあの子を呼んできて」
慄いた主婦はアジアから留学してきたバイトの若い青年を呼びに走り出していた。
一体、何が目的なの?
私は糸を垂らす精液に向けて、呟くだけで精一杯だった。