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満里子
【フェチ/マニア 官能小説】

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満里子-32

 「何故? 何故って、そうしたいから。こういう格好すると優ちゃん似合う。とっても素敵だよ」
 「そんな馬鹿な。そんなことがあるか」
 「そんなことがあるかって言っても素敵じゃない。ほら、鏡で見てごらん」
 「見たくない。目が潰れる」
 「何でよ。偏見を捨てて素直に見てごらんなさいよ。本当に素敵なんだから」
 「偏見なんかじゃない」
 「それじゃ素晴らしいのが分かるでしょ?」
 「あのさあ、分かった。確かに偏見を持っているよ。誰か他の男がこういう格好してるんだったら、偏見を捨てて素直に見ることも出来るかも知れないけど、自分がこんな格好するなんて耐えられないよ」
 「何で? 厭だっていうのは分かるけど、こんなの全部服を着れば隠れちゃうのよ。ベルトは今だけだって言ったでしょ? それでも我慢出来ないの?」
 「我慢出来ないね。何で僕だけそんなに我慢しなければいけないんだよ。満里子にセクシーな服装を要求してるっていうけど、そんなの満里子の趣味でもあるじゃないか。それだって、どうしても厭な物なら僕は絶対にこれを着ろ、あれを着ろって強制したことなんか無いだろ」
 「服装のことはね」
 「服装のことだけじゃない。生活全般何についても僕は満里子に何かを強制したことなんか何も無いじゃないか。男にこんな下着を着せて何がそんなに素晴らしいんだよ。それが満里子のファッション・センスなのかよ」
 「そうよ。本当に本当のことを言ってもいい?」
 「何だよ。本当に本当のことって。何でも言ってみろよ」
 「あのね。本当のこと言えば下着だけじゃないの。優ちゃんには上着も私の服を着て欲しいの」
 「え?」
 「着る物、身に付ける物は全部優ちゃんと共通にしたいの。これは私の、これは優ちゃんのっていうことなしに、全部二人の物にしたいの」
 「そんな・・・」
 優輝は絶句してしまった。それから深呼吸を繰り返して興奮を抑え、静かに長い時間満里子と話をした。満里子は自分の好きな男に自分と同じような格好をして貰いたい、いや、自分の手でそういう風に装って上げたいという強い欲望があるのだという。そして仲良しの姉妹のように手をつないで歩くことが出来ればそれ程嬉しいことは無いのだと言う。そんなことってあるのだろうか。女装趣味の男がいることは知っているし、男装趣味の女がいることだって分かる。しかし男に女装させる趣味、女に男装させる趣味というのは聞いたことが無い。いや、同性愛の女なら好きな女に男装して貰いたいと思うのかも知れないし、余り聞いたことは無いけれども同性愛の男が相手の男に女装させるということもあるのかも知れない。しかし、男を男として愛している女が、男に女装させたがるという変梃りんな心理なんてあるのだろうか。
 「だって女の子は小さい頃からお人形さんにあれこれ服を着せて楽しむものなのよ」
 「それはお人形さんのことだろう?」
 「だからそれが本物の人間だったらもっと楽しいと思わない?」
 「僕に聞くなよ。全く想像も出来ない趣味なんだから」
 「それじゃ私が答えるけど、本物の人間だったら、あれを着せたりこれを着せたりっていうのが凄く楽しいの」
 「物凄く変わっていてもいいんだけど、男性用の服をあれこれ選んで着せるっていうのでは駄目なの?」
 「駄目なの。紳士服だと夢が無いの」
 「これは夢があるのか」
 「あるでしょ?」
 「まあ、確かにお人形さんに着せてる分にはそうも言えるかも知れない」
 「でしょ? 優ちゃん私のこと愛してるんだったら、それくらい我慢出来るでしょ? 上着まで私の服を着ろなんて言ってないんだから」
 「まあ、上着まで着たら完全な性倒錯者になってしまうな」
 「だから私も我慢してるの」
 「でも、そんな趣味があるなんて今まで全く言わなかったじゃないか」
 「恥ずかしかったから」
 「以前付き合ってた男にもそういうことをしたのか?」
 「ううん。そういうことをして貰えるような人じゃなかったし、自分の欲望がまだそんなにはっきりと自覚出来ていなかったのね」


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