満里子-30
「感じたね」
「ああ、でももういい」
「もういいって?」
「やっぱりああいうのは性に合わない」
「そんなこと言ってさっきの女性をずっと見ていた癖に」
「気が付いてたのか」
「気が付いてたよ」
「満里子は夢中でセックスしてるのかと思ってた」
「夢中でセックスしてたってそれくらい分かる」
「そうか」
「でも確かにあの人凄かったね。何か薬でも飲んでるのかと思った」
「まさか」
「あの人達とやるの?」
「やらないよ」
「やりたいんじゃなかったの?」
「やりたくない」
「本当?」
「ああ。初めての経験だから物珍しくて見ただけだ」
「私はやりたい」
「厭だ。スワッピングなんて趣味じゃない。満里子が他の男にセックスされる所なんか見たくない」
「だから今みたいにお互い見せ合うだけならいいじゃない」
「まあ、ああいうのは珍しい外国料理みたいなもんだ。一生に一回経験すれば十分」
「残念だなあ」
「他のことなら何でも付き合うから」
「他のこと?」
「ああ。ガードル穿けって言えばそれを穿くから」
「そんなの当たり前のことよ」
「当たり前ではないだろう」
「下着くらい当たり前よ」
「当たり前じゃないさ。あそこに来ていた男達だって女性用の下着を穿いていたのは僕だけだったじゃないか」
「そうね」
「だろう? 僕はあいつらに負けないくらい変態的なことをしてるんだ。いや、されているんだ。それを我慢して生活しているんだよ」
「それじゃいいわ。下着だけで我慢して上げる」
「そうさ」
「でも下着は何でも言う通りにするのよ」
「言う通りにしてるじゃないか」
「だから文句を言わないで穿くのよ」
「文句言ったって穿いてるじゃないか」
「文句を言わないで穿くの」
「分かった。そうするよ」
しかしこの時の会話は後に繰り広げられる悪夢のような出来事のプロローグだったのである。
「何をしているんだい?」
「明日優ちゃんに着て貰う下着を選んでいるの」
「そんなのは明日の朝にすればいいさ。何か買い物にでも行くの?」
「ううん。特に何処という予定は無いけど、私の気に入った格好してくれるというから嬉しくて何処かに出かけたいの」
「そんなことがそんなに嬉しいのか」
「ええ」
「下着なんて今までだって言う通りにしていたじゃないか。何がそんなに嬉しいんだ」
「だってもっと過激な下着だもの」
「過激? 過激って?」
「だから今出してるから、試しに着て見せて」
「まあ、過激と言っても女性用の下着っていうだけなんだろ?」
「そう。これなんだけど、着てみて」
「何だ、それは」
「だから下着」
「下着っていうのはパンツのことだろう?」
「違うわ。上着の下に着る物は全部下着よ」
「おっぱいも無いのに、何で僕がブラジャーをしなければいけないんだ」
「これはブラジャーじゃないわ。オールインワンと言うの」
「だからブラジャーだってセットになってるんじゃないか」
「セットになってないわ。私がこれを着る時はこの下にブラジャーを付けるんだから」
「そんなこと言ったってそんなの着たらシャツから透けて見えるじゃないか」